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遠方での葬儀参列について

遠方で執り行われる葬儀に参列するかどうかは、故人やご遺族との関係性によります。どれほど遠くてもかけつけたい人もいれば、参列は控えて別のかたちで弔意を示すこともあります。

遠方での葬儀に参列するかどうかの意思表示は、早めにしたほうがよいでしょう。ご遺族は遠方からの参列者に配慮し、葬儀日程や会場を調整しているかもしれません。

この記事では、遠方への葬儀で参列者として考慮すること、遠方からの参列者を迎える喪家側が行うことについて解説します。

遠方の家族や親せきから訃報が届いたら

遠方に住む家族や親せき、友人の訃報が届いたときに、葬儀に参列するかどうかをすぐには決められないことがあります。遠い土地の葬儀に行くには、費用や仕事などの調整が必要です。

弔問や葬儀・告別式への参列が、もっとも丁寧な弔意の表し方ではあります。しかし諸事情により参列を見送ると決めたら、弔電、供花、供物の手配、香典を郵送するなどで弔意を伝えましょう。

なお、危篤、臨終の連絡範囲は3親等までが一般的です。ただし3親等以内であっても、長年付き合いが途絶えているケースもあります。その場合は、会葬を控えることもあります。

  • 1親等:父母、子
  • 2親等:祖父母、孫、兄弟姉妹
  • 3親等:曽祖父母、ひ孫、伯父伯母(叔父叔母)、甥姪

遠方の定義とは

遠方とはどれくらいの距離なのか、明確な定義はありません。日本は小さな国ですので、たとえば南端の沖縄県から北海道まで移動したとしても、那覇空港から札幌市内まで地上交通を含めても約6時間。都市間の移動なら数時間で可能で、国内線の飛行時間はほとんどの区間で2時間以内です。

しかし、交通網の発達した都市部から在来線やバス、フェリーなどに乗り換えて何時間もかかる地域もあり、特に山間部や離島だと移動にかなりの時間がかかることもあります。

移動の距離、時間、費用の点で、遠方とは以下の状況と考えられます。

  • 飛行機や新幹線を利用しないと行けない距離
  • 日帰りができない距離
  • 高速道路を利用しないと時間がかかりすぎる距離
  • 主要都市から乗り換えが必要で交通が不便な地域

遠方の葬儀に参列しないほうがよい人

日帰りが可能な近距離の葬儀と遠方での葬儀とでは、参列者の負担の度合いが違います。以下に該当する人は参列を控えるほうが、本人にとっても喪家にとっても安心なこともあります。

高齢の人や歩行に問題がある人

年齢が高くても健康で、実年齢より肉体年齢が若い人もたくさんいます。しかし疾病や、歩行の問題は年齢とともに増えるのが一般的です。

参列するのなら介助者同行のうえ、バリアフリーのある駅や優先搭乗を利用しましょう。車いすでの乗車や搭乗は、事前に利用する駅や空港に連絡を入れるとスムーズです。

闘病中の人

病気や怪我で治療中の人は、移動中や滞在中に悪化や急変の心配があるため、弔問は控えるほうがよいでしょう。遠方への参列を希望する際は、主治医への相談が必要です。

妊娠している人

妊娠週数によりますが、妊娠中の長距離移動は、一般的に好ましくありません。飛行機の搭乗に適している時期は、妊娠16~32週(5~9か月)とされています。

出産予定日から28日以内(妊娠36週)の搭乗には、医師の診断書が必要になります。しかし36週以降は妊娠10か月で、すでに臨月です。いつ出産になっても不思議ではありませんので、遠方への弔問は控えるほうがよいでしょう。

外見からはわからない妊娠初期に遠方の葬儀に参列するときは、「ヘルプマーク」をバッグなど目立つところにつけて移動すると、周囲からの配慮や理解が得られやすくなります。

参照 大阪府ヘルプマークについて

「妊婦は葬儀、火葬に参列するべきではない」という話を耳にすることがあります。「赤ちゃんを連れて行かれる」「妊婦が火葬場に行くとあざのある子が生まれる」など、さまざまな言い伝えがあります。すべて迷信ですので、母体と胎児の安全を優先して参列するかどうかを検討しましょう。

新生児がいる人

出産直後で首がすわらない乳児がいる人は、2~3時間ごとの授乳が必要です。母子の安全のため、長距離移動は避けるのが無難です。

遠方の葬儀に参列する際に問題になること

遠方の葬儀に参列したい気持ちがあっても、さまざまな理由で辞退せざるを得ないことがあります。次のような事情が障壁となります。

  • 旅費、宿泊費
  • 仕事
  • 健康状態
  • 育児、介護
  • ペット

旅費、宿泊費など費用の問題

遠方の葬儀に参列する際に、移動時間とともに旅費や宿泊費の問題があります。

結婚式は、主催者が招待する性質の宴です。そのため遠方から列席する人の交通費や宿泊費を、主催者側で全額あるいは一部を負担するのが一般的とされています。

一方で、葬儀に参列するかしないかは訃報をうけた側の判断となり、交通費、宿泊費は原則として会葬者の負担になります。

新幹線や飛行機、ホテルには「早割」などと呼ばれる、早い時期に予約すれば料金が大きく割引になるサービスがあります。しかし葬儀は予定が立てられないため、早期の予約ができません。その点も、遠方の葬儀への参列を難しくしています。

費用の問題は、親せきなら家族全員ではなく代表者のみが参列するのも一案です。

仕事の問題

会社員でも自営業者でも、遠方の葬儀に参列するには何日か仕事を休む必要があります。訃報は突然やってくるため、事前に予定を組むことができません。自分が不在の間、代理で仕事をしてくれる人が必要です。

なお、忌引き休暇は勤務先の就業規則により、日数もまちまちです。法定外休暇のため、給与が支払われないことがあります。仕事の調整ができて故人とのお別れを希望する人は、参列する方向で検討しましょう。

健康状態

健康状態によっては、長距離移動は難しいことがあります。病気や怪我が治った直後で健康状態が完全に戻っていない時期は、参列を控えることも考えましょう。

故人との関係が近く、お別れに行きたい気持ちが強いときには主治医に相談してみてください。ただし弔問に行くことでご遺族に気を遣わせたり、移動中に状態が悪化したりすることが心配です。

育児、介護

乳幼児がいたり、介護している家族がいたりして家を空けるのが難しい人も、遠方の葬儀には参列しづらくなります。預け先や代理でみてくれる人が見つかれば、参列を検討しましょう。

介護のケースでは、介護されている人が数日間だけ施設に滞在できる「ショートステイ」という方法があります。

介護認定を受けていれば担当のケアマネジャーに相談し、手配してもらいましょう。介護老人保健施設(老健)や特別養護老人ホーム(特養)で受け入れをしています。

「有料ショートステイ」という介護保険適用外のサービスもあり、有料老人ホームで運営しています。こちらは、施設に直接問い合わせます。

「ショートステイ」「有料ショートステイ」ともに、空室があれば被介護者を短期間預かってもらうことができ、遠方の葬儀への参列も可能です。

ペット

当然ながら、葬儀にペットを同伴することはできません。友人や知人に預ける、ペットホテルの手配などが必要になります。冠婚葬祭に限らず、飼い主の急病などに備えて日頃から預け先をリストアップしておくと安心です。

遠方の葬儀に行けないときの弔意の表し方

遠方の葬儀への参列を見送ることにしたら、次の方法で「弔意」を伝えます。

弔電を打つ

通夜の前までには喪主宛に、弔電を送ります。喪家はたてこんでいるため、電話でのお悔やみは控えましょう。

供花や供物を送る

供花や供物は喪家の意向を確認したうえで、会場の雰囲気に合うように、葬儀を取り扱う葬儀社に依頼します。担当葬儀社がわからないときには、葬儀会場に問い合わせると教えてもらえます。通夜の前には届くように手配しましょう。

香典を送る

葬儀が終わったら、ご自宅宛てにお悔やみの手紙を添えた香典を現金書留で送ります。葬儀会場によっては、現金書留の代理受け取りを行っていないところがあります。会場ではなく、ご自宅へ郵送するのが安心です。

喪家が香典、供花、供物を辞退していないかを、事前に確認する必要があります。

遠方から来る家族や親せきがいる喪家がしておくこと

親や兄弟姉妹、子や孫などが臨終の際は、遠方でもかけつけることがほとんどです。遠方から来る人に合わせ、葬儀を挙げる側は以下の点に配慮しましょう。

到着に合わせた葬儀、火葬日程

遠方からの親族や会葬者の到着に合わせ、場合によっては通常より葬儀までの日数を多めにとります。葬儀社と打ち合わせをし、適切な日時で葬儀会場、火葬場を押さえてもらいましょう。

アクセスのよい葬儀会場の選択

遠方からの参列者が多いときは、可能な限り最寄り駅から近い葬儀会場を選ぶと参列者は助かります。特に高齢の人や介助者が必要な人が参列するときには、バリアフリーの設備が整った会場が理想です。

人数に合わせた宿泊場所の確保

自宅に泊められないときは、ホテルを手配しておきます。支払いは参列者にしてもらうにせよ、葬儀会場の近くのホテルを押さえておくと親切です。

友引を気にしないこと

遠方からの参列者がいる場合は、友引の葬儀をあまり気にせず、参列者の都合に合わせた日程を組むほうがよいでしょう。

地域によっては友引の日に火葬場が休業しているため、葬儀があげられません。しかし大阪府のように、友引にかかわらず火葬場が開いている地域も多数あります。

ご遺体を長期間安置するには

遠方から来る参列者を待つ際に、到着に合わせて通常より長い日数のご遺体の安置が必要になることがあります。ご遺体の保全方法はドライアイスでの冷却が一般的で、長期安置にはエンバーミングという方法もあります。

追加ドライアイス

ご遺体が傷むのを遅らせるために、冷却を続けます。ご遺体の冷却にはドライアイスが必須です。

ドライアイスは葬儀社の料金プランに含まれていることがほとんどですが最小限の量のため、追加ドライアイスが必要になります。追加分の料金は、1日につき1万円前後です。

ドライアイスを使ったご遺体の安置は夏場は4~7日間、冬場は7~10日間といわれています。海外からの参列者を待つなどの理由でそれ以上の安置が必要なら、エンバーミングを考えます。

法律上、死後24時間は火葬ができません。しかし死亡から火葬までの期間は、何日以内に火葬しなくてはいけないという法的な定めはありません。

エンバーミング

エンバーミングとは「遺体衛生保全」を意味し、土葬が中心の欧米では一般的です。死後数日で火葬をする日本ではあまり行われませんが、エンバーマーという有資格者が行う、ご遺体の保存技術です。南北戦争で亡くなった兵士を長距離輸送するため、アメリカで発展したといわれています。

防腐剤などの保存液を血管から注入しながら血液を排出させ、ご遺体の状態を亡くなったままの姿で、最低でも10~20日ほど保存が可能です。エンバーミング処置をしたご遺体は、ドライアイスによる保冷の必要がありません。

費用は15~25万円で、葬儀社を通じて手配します。エンバーミングは日本では普及していないため、葬儀社に専任のエンバーマーが在籍していることは稀です。葬儀社が提携するエンバーミング施設に依頼するのが一般的です。

故人に近い身内や関係者が海外在住、海外出張中、留学中などですぐには戻れない状況にあり、故人を火葬せずに帰国を待つ場合などには、エンバーミングも検討しましょう。

海外で亡くなった人を現地で荼毘にふさず、ご遺体を空輸するときもエンバーミングを施します。機内では安全上、大量のドライアイスを使用することができないためです。

交通手段(新幹線、飛行機、高速道路)の割引制度

新幹線や飛行機、高速道路は、長距離乗ればそれだけ交通費も高額になります。以下の条件にあてはまる人は割引が適用されますので、利用してはいかがでしょうか。

JR6社のジパング倶楽部

JR北海道、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR四国、JR九州)

男性65歳以上、女性60歳以上で入会できます。年会費は個人会員(1人)3,840円、夫婦会員(2人)6,410円です。

JR線を片道・往復・連続で201キロ以上利用の場合、20%~30%の割引があります。JRの利用頻度が高い人は、入会を検討してもよいかもしれません。

参照 JR東日本ジパング倶楽部

全日本空輸(ANA)のスマートシニア空割

65歳以上で、当日に空席があれば約50%オフで搭乗できます。搭乗日当日の0:00から予約が可能です。ANAマイレージクラブ会員であることが条件になります。

参照 スマートシニア空割運賃

日本航空(JAL)の当日シニア割引

65歳以上で、当日に空席があれば約50%オフで搭乗できます。搭乗便の出発4時間前から20分前まで予約が可能です。JALマイレージバンク会員であることが条件になります。

参照 当日シニア割引(65歳以上限定)

ANAもJALも会員になるのに入会金・年会費は無料です。遠方に実家があったり親せきがいたりする人は、会員登録をしておくと便利です。

障害者割引運賃(JR、私鉄、ANA、JAL)

身体および精神障害者手帳を持っている人は、本人と介護者1名の合わせて2名分の乗車券、航空券が割引になります。鉄道は乗車券のみ適用で自由席特急券・指定席特急券は対象外です。飛行機は国内線のみに適用されます。

参照 JR東日本障害者割引制度のご案内 

   ANA障がい者割引運賃について

ETC割引

ETCカードと車載器の利用で、曜日や時間帯により高速料金が割引になります。平日朝夕割引、深夜割引、休日割引など30%から最大50%の割引があります。車で移動する人は高速道路に乗る時間帯を調整することで、割引料金での利用が可能です。

参照 ETC割引情報

まとめ

訃報を受けたら通夜、葬儀・告別式に参列するのがもっとも丁寧なマナーです。しかし遠方への弔問や会葬は、さまざまな理由で難しいことがあります。

事情により葬儀への参列を控えるときにも、心をこめて弔意を伝えることが大切です。葬儀への参列がかなわないときは、弔電、香典、供花や供物を送り弔意を伝えましょう。香典を郵送する際にはお悔やみの手紙を同封し、参列できなかったことへのお詫びも書き添えます。

遠方への弔問には交通費や宿泊費などの費用も高額になるため、利用できる割引制度があれば使い、できる限り負担を軽くしましょう。

喪家側では、遠方からの家族、親族、会葬者に合わせ、葬儀社と相談のうえ葬儀日程や会場の調整を行います。場合によっては、ご遺体の長期間保全が必要になります。

参列者にとって遠方での葬儀はハードルが高くなりますが、諸事情を調整のうえ悔いが残らないように弔意を表しましょう。