直葬とは
葬儀のなかでもっともコンパクトな形式
葬儀を規模別に分類すると、大きなほうから一般葬、家族葬、一日葬、直葬の順になります。直葬は一番シンプルな葬儀形式で、火葬のみを行うため「火葬式」ともいわれます。
鎌倉新書が行った「第5回お葬式に関する全国調査(2022年)」によると、葬儀全体からみた直葬の割合は2020年で4.9%、2022年では11.4%に増加しました。
主な理由として、コロナ禍による三密回避が考えられます。また、日本は平均寿命の延伸で超高齢社会となりました。遺族も高齢化しているため、負担軽減のために葬儀規模が縮小傾向にあるといわれています。
直葬の参列者数の平均は2020年が20人、2022年が30人と増加しました。一般葬や一日葬では参列者が減少、家族葬では横ばいという結果がでています。
出典:「第5回お葬式に関する全国調査(2022年)」株式会社鎌倉新書
どのような場合に執り行われるか
直葬は故人が高齢であったり、生後間もなく亡くなったりして、親族以外の会葬者がほどんどいないときに行われます。経済的に葬儀費用の捻出が難しい場合にも、低コストで行える直葬が向いています。
また、不慮の事故や事件による死去で、死亡理由を広く知られたくない、そっとしておいて欲しいと遺族が願うとき、直葬が選ばれることがあります。
葬儀の流れ
直葬の流れは、基本的に逝去の翌日か翌々日に火葬を行います。火葬場の空き状況によっては、それ以降になることもあります。
逝去当日は、病院や施設などからご遺体を安置場所に搬送します。事故や事件、災害で死亡した場合は、警察の検死が必要です。法律で定められている24時間以上の安置後に納棺し、出棺、火葬・収骨という手順になります。
直葬にかかる費用
他の葬儀形式との比較
他の葬儀形式と費用相場を比較すると、一般葬で200万円前後、家族葬で150万円前後、一日葬が100万円前後であるのに対し、直葬の費用は20万円前後です。
葬儀は規模が大きいほど費用も高額になりますので、コンパクトな直葬の費用がもっとも低額になります。
最低限必要なものは
費用を考えるうえで、直葬に必要なものをリストアップすると、以下のようになります。
- 搬送手段:病院や施設などから安置場所へ搬送のための寝台車、納棺後に火葬場まで搬送する霊柩車
- 安置場所:法律により火葬前に最低24時間の安置が必要なため、自宅や安置施設を利用
- ドライアイス:遺体の腐敗を遅らせるために必要で、季節や火葬までの時間により量が異なる
- 死装束:経帷子(きょうかたびら)が基本だが、故人の好きだった装いでもよい
- 棺:火葬炉に入れるために必要
- 骨壺:骨上げ(収骨)に必要
ドライアイス、死装束、棺、骨壺は楽天市場やAmazonなどインターネット通販でも購入できます。価格の相場を知るために、閲覧してみるのもよいでしょう。
ご遺体に着せる死装束は、仏式ならば正式には経帷子(きょうかたびら)とよばれる白い着物、天冠(てんかん)という頭につける三角の布、手甲(てっこう)という手につける布、白足袋、わらじなどです。宗派により、やや違いがあります。ただし、故人が好きだった着物を着せてもかまいません。
必要品はインターネットで購入可能とはいえ、長さが2メートル近くの棺の搬送には、相応の車両が必要です。葬儀社の手を借りるのがよいでしょう。
直葬の費用例
多くの葬儀社で、直葬プランを提供しています。ここではA社とB社の直葬プランをご紹介します。
A社はセット料金が安価な分、最低限の内容ですが、オプションで必要なものを加えられるタイプです。B社は、やや高額ですが、必要とされるほとんどがプランに含まれている例です。
なお、セットのなかに不要なものや使用しなかったものがあっても、その分がセット料金から差し引かれることはありませんので、注意が必要です。
◎A葬儀社
直葬プラン:93,500円(税込)
含まれるもの
- 寝台車(ご遺体を安置場所へ搬送)
- 施設内安置(2日間)
- ドライアイス(2日分)
- 諸手続き代行
- 棺(桐貼り木製、布団、杖等)
- 納棺の儀
- 出棺(自宅もしくは安置施設から火葬場への移動)
- 火葬料金(葬儀社が代行)
- 収骨セット(骨壺、壺覆い)
- 案内スタッフ
オプション
- 枕飾り:11,000円
- 古式湯灌:44,000円
- 仏衣一式:3.300円
- 後飾り:11,000円
- 安置料(2日を超える分):440円~11,000円
- 遺影作成:16,500円
- 白木位牌:3,300円
- 花束:3,300円~
- 導師紹介(読経、御車代、御膳料を含む):40,000円
- 料理(火葬中または精進落とし):3,850円~
- 返礼品:2,160円~
◎B葬儀社
直葬プラン:198,000円(税込、会員セット価格)
※一般価格が220,000円(税込)のところ会員になることで割引がある
オプション
- 安置場所使用料(2日間)
- 寝台車、霊柩車
- 枕飾り
- 納棺用具一式(棺、仏衣など)
- ドライアイス(1回分)
- 遺影写真
- 収骨用具(骨壺、壺覆い)
- 諸手続き代行
- 安置場所への宿泊(2名まで)
- 火葬場でのお世話スタッフ(1名)
葬儀業者の選びかた
葬儀社が決まっている、または生前契約している場合
前出の「第5回お葬式に関する全国調査(2022年)」では、葬儀社を決めるまでにかかった時間の調査もあり、平均時間は没後5.3時間でした。また、39.9%の人が「生前に故人と葬儀社を決めていた」と回答しました。約4割の人が、葬儀社を決めていたことがわかります。
すでに葬儀社が決まっていたり、故人が葬儀の生前契約をしている場合には、速やかに葬儀社に連絡を入れましょう。
直葬プランのある葬儀社がおすすめ
葬儀社が決まっていない場合は、インターネット検索などで直葬プランを提供している葬儀社を選ぶのが無難です。
多くの葬儀社では必要品をセットにした料金を提示していますので、個別に注文するより時間の無駄がありません。
納棺の儀とは
直葬では、通夜、葬儀・告別式を行なわず、基本的には宗教者も呼ばないため、葬送の儀式らしいものがありません。行うとすれば、ご遺体を棺に納める際の「納棺の儀」があります。
納棺の儀を手伝ってくれるのが「納棺師」とよばれる職業の人たちです。納棺師は、2008年に公開され話題になった映画「おくりびと」で広く知られるようになりました。納棺師の主な業務は、故人の旅立ちの準備を整えることです。
具体的には、ご遺体の湯灌または清拭、死化粧、死装束への着替えをし、棺に納めるまでを行います。専門技術により生前の顔立ちを復元することもでき、遺族が安心して見送ることができるよう、手助けをしてくれます。故人に着せたい装いや生前使用していた化粧品などがあれば、申し出てかまいません。
通夜、葬儀・告別式という儀式を行わないかわりに、納棺の儀にいくぶんかの予算と時間を割くという方法もあります。遺族も納棺師の手順に従い、着替えや死化粧に手を添えることが可能です。納棺師とともに故人の旅支度を行うことで、遺族が心の整理をする一助になることがあります。
納棺師の手配は、葬儀社経由が一般的です。葬儀社の直葬プランのなかに納棺が含まれている場合、葬儀社スタッフによるものとなります。納棺師への報酬は別料金で、相場は5~10万円です。
直葬のメリット
経済的負担が少ない
一般葬の費用相場が200万円前後となるのに対し、直葬は20万円前後です。無宗教式で行えば、宗教者への御礼も不要となります。葬儀費用を抑えたい場合には、大きなメリットとなります。
遺族の心身の負担が少ない
一般的な葬儀では、遺族は悲しむ間もなく多くの雑務を行う必要があります。直葬は遺族やごく親しい人たちのみが立ちあいますので、煩雑な行程がほとんどありません。
香典を辞退すれば返礼品は必要がなく、通夜ぶるまいや精進落としなどの接待も不要です。遺族も高齢であったり病気療養中で一般葬をあげるのが身体的、精神的に困難な場合には、直葬が向いています。
直葬のデメリット
お別れの時間が短いことも
直葬では、火葬場の空き状況にもよりますが、最短で翌日か翌々日には火葬というスケジュールです。
遺族が心の整理をし、お別れをするには時間が短いと感じることもあります。また、逝去した日を含め2日から3日ですべてを終えるため、あわただしさを感じることもあるかもしれません。
周囲から理解されにくい
近年は少子高齢化、核家族化、葬儀形式の多様化などで、葬儀規模がコンパクトになる傾向にあります。しかし「お葬式をあげない」ことは、それほど一般的ではありません。
都市部では注目され始めている直葬ですが、昔からの風習が残る地方では、周囲から理解されないケースも多くみられます。また、後に訃報を知った人が、参列できなかったことに不満を抱くこともあります。
世間体を気にする親族から反対されたり、非難されたりすることもあるでしょう。無宗教式で故人を送ることに、抵抗を示す人も多いと思われます。
菩提寺との関係が悪化することも
菩提寺がある場合、相談なく宗教儀式を省くと住職の心証を害することになるでしょう。戒名がないと寺院墓地への納骨ができないと言われることがあります。
直葬を執り行う際の注意点
菩提寺がある場合
直葬のデメリットで説明したとおり、寺院内の墓地に納骨する場合は戒名が必要で、生前の氏名である俗名では墓に入れられないことがほとんどです。
通常、仏式葬儀は菩提寺の方針により執り行われますので、宗教儀式を省略すると、菩提寺との関係が悪化する懸念があります。
そのため、直葬で行いたい場合は必ず事前に相談し、戒名を授かり、僧侶に安置場所か火葬炉前で読経してもらうことをおすすめします。その際、読経料と戒名料とを合わせた御布施が必要です。御布施の金額がわからなければ、菩提寺に直接問い合わせます。
宗旨宗派がわからない場合
故人の宗教がわからない場合は、無宗教式でも葬儀が可能です。寺院墓地では戒名がないと納骨できないとされていますが、公営墓地や民営墓地なら俗名でも納骨が可能です。墓石には、俗名を彫刻しても問題はありません。
周囲の理解が得られないときは
直葬の割合が増えてきたとはいえ、まだ一般的な葬儀形式ではないため、直葬に異を唱える人がいても不思議ではないのです。理由を明確にして、理解を求めましょう。主な理由として考えられるのは、以下のとおりです。
- 故人の遺志で、葬儀をせず火葬のみを行ってほしいとあった
- 経済状況を考えると通夜、葬儀・告別式をあげるのが困難である
- 喪主をはじめ遺族全員が高齢のため、簡素な葬儀にしたい
訃報の連絡範囲
故人が高齢の場合、友人・知人も他界していたり、施設入所中や病気で入院中のこともあります。可能な限り、故人の関係者には逝去した日時と、近親者のみで見送った旨を連絡するようにします。
地域によっては、町内の掲示板や回覧板で訃報の通知をするところもあります。その場合は、逝去日時とすでに荼毘に付して納骨も済んでいることを、町内会や自治会の代表者に連絡しましょう。
直葬に参列するマナー
喪服を着用のこと
通夜、葬儀・告別式を行わなくても、葬送の場ですので喪服を着用するのがマナーになります。火葬場は公共の場所で、他家の利用者もいるためカジュアルな服装はタブーです。
香典はどうするか
遺族より「香典、供花、供物は辞退します」との連絡がなければ、香典を持参します。直葬では一般葬のような受付はありませんので、喪主または遺族代表にお悔やみの言葉とともに手渡します。
その他の注意すべきマナー
スマートフォンや携帯電話はマナーモードにするか電源を切るのはもちろんですが、火葬場は撮影禁止であることを覚えておきましょう。他家や火葬場職員のプライバシー保護の観点からも、写真や動画の撮影をしてはいけない場所なのです。
まとめ
葬儀を規模別に見た場合、もっともシンプルな葬儀である直葬(火葬式)について解説しました。
近年は終活という概念が一般的になり、自分の最期はある程度決めておく人も増えました。可能であれば、家族と葬儀形式や依頼したい葬儀社を話し合ったり、予算決めをしたりしておくと葬儀がスムーズに進みます。
葬儀に費用をかけるより、預金は配偶者や子に残したいと考え、直葬を希望する人もいます。
高齢になるほど認知症のリスクも高くなるため、意思決定が確実にできるうちにエンディングノートなどを利用し、葬儀形式の希望があれば記録しておくのが理想です。