葬儀形式

近年注目される「無宗教葬儀」とは?費用・注意点を解説

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日本の葬儀の約9割は仏式

日本で「葬儀」といえば、ほとんどの人がお寺や葬儀社の斎場を思い浮かべます。通夜、葬儀・告別式、火葬という決まった流れがあり、僧侶の読経、焼香、喪主挨拶などの一定の形式にのっとって執り行われるのが代表的な日本の葬儀です。

日本では約9割が仏式の葬儀で、その他キリスト教や神道の形式でも行われます。江戸時代より葬儀は宗教的儀礼として行われ、現在も宗教色の濃い行事となっています。

仏式、キリスト教式、神式のいずれも、その宗教に合わせた伝統的なしきたりや作法があります。しかし近年、葬儀のかたちが多様化してきました。特定の宗教儀礼に従わない、新しい葬儀のかたちを選ぶ人も増えています。 この記事では、近年注目を集めている「無宗教葬儀」について、その性質や選ばれる社会的背景、費用面を中心に解説します。

無宗教葬儀とは

「無宗教葬儀」とはその名のとおり、特定の宗教儀礼にとらわれない葬儀を指します。一般的に、葬儀と宗教は切り離せないものと考えられます。しかし、宗教色のない葬儀を挙げることも可能です。これが近年注目される新しいかたちの葬儀であり、「自由葬」とも呼ばれます。

無宗教葬儀が選ばれる背景

無宗教葬儀が選ばれる理由に、社会構造や価値観の変化があげられます。かつては家族の一員が亡くなると「世間に恥ずかしくないお葬式を出すこと」に尽力していましたが、「盛大なお葬式=よいお葬式」という風潮は次第に薄れてきています。

実際、この10年ほどの間に家族だけで行う「家族葬」、通夜を行わず葬儀だけを行う「一日葬」、葬儀を行わない「火葬式(直葬)」も増加してきました。
葬儀の規模はコンパクトになる傾向にあるということです。費用面でも、大きな縮小がみられます。

その背景として、少子化や核家族化があげられます。ひと昔前は二世代、三世代が同居するのが一般的でした。冠婚葬祭に関しては、祖父母や両親、年長の親戚や地域の人たちから伝わるしきたりやルールに、誰もが従ったものです。
しかし現在は、地域や寺院との関わりも親戚付き合いも希薄になりつつあります。その結果、「形にとらわれない葬儀のしかたがあってもよいのではないか」と考える人が増えてきました。

そして、「終活」という概念が広まり、自分の葬儀のことを決めておきたいシニア層が増加したことも、宗教色のない葬儀が選ばれる理由です。
終活には、葬儀代金や墓の準備、遺言書やエンディングノートを書くことなどが含まれます。エンディングノートの「私の葬儀について」の欄に、希望する葬儀形式を書いておく人が増えました。

たとえば「特定の宗教・宗派がないので、無宗教で行ってほしい」「葬儀は寺院ではなく思い出の〇〇レストランで挙げてほしい」などです。生前に自分の葬儀について家族と話し合いを行うことも、終活の一環となっています。

無宗教葬儀の費用

さて、葬儀を挙げるには、まとまった金額が必要です。無宗教葬儀にかかる費用には、どのようなものが含まれるでしょうか。

費用は自由に決められる

費用は、喪主や喪家側の人が自由に決めることができます。一般的な葬儀の場合、葬儀社では料金別にいくつかのプランを用意しています。プランに含まれるもの、別途費用が発生するものが明確で、比較的短時間で選びやすくできています。

無宗教葬儀にはそのような「葬儀プラン」がないため、費用面では最小限で済ませることも、大きな金額をかけることもできます。

一般的な葬儀にかかる費用は、葬儀社への支払いと宗教者への御礼とに大別されます。宗教者への御礼とは、仏式は御布施、キリスト教式なら献金、神式では御祭祀料です。無宗教葬儀の場合、宗教者を呼びませんので、御礼の費用が不要です。

突然喪主をすることになり「どれくらいの金額を用意すればよいのか」と頭を抱える人も多いでしょう。費用面で心配な人は、無宗教でも葬儀をあげられること、費用をかけた葬儀ばかりがよい葬儀とも言えない時代になっていることも、心にとめておきましょう。

最初に予算を決めて企画することをおすすめ

無宗教葬儀にかかる主な費用を、具体的にあげることにします。なお、火葬に必要な棺や収骨のための骨壺、火葬場使用料などは無宗教葬儀であれ、必要です。その費用を、火葬式費用の目安である約20万円としておきます。

以下に、それ以外の費用例をあげてみましょう。

会場費

自宅使用ならば費用はかからず、ホテルやレストランを利用すると参加人数に応じた会場費が発生します。安価にしたい場合は、区民センターや市民センターの集会室を借りる方法もあります。

飲食費

参列者を飲食でもてなす場合には、単価×人数分の費用が必要です。1名分は仏式葬儀の精進落としの相場である5,000円を見込みます。費用を抑えたければ、軽食でもかまいません。

人件費

演出や会場設営を専門家に依頼したり、司会をプロに担当してもらう費用です。葬儀規模が大きい場合、「受付」「会計」「会場案内」「接待係」などのお手伝いを、近しい人に依頼することがあります。その際、1人につき3,000円程度の御礼を用意しましょう。

返礼品

参列者への御礼として、人数分の返礼品を用意します。相場は1人1,000~3,000円です。返礼品には喪主の名前で令状を添えます。

葬儀費用は、まずはかけられる費用を決め、その範囲内で行えるように予算組みをしましょう。

無宗教葬儀のメリット

形式を問わない

故人の遺志や遺族の希望に沿った、独自の演出ができることが大きなメリットです。宗教的葬儀にはその宗教・宗派により飾ってはいけない花や、供えられない食べ物があります。そのようなタブーが、無宗教葬儀にはほとんどありません。

参列者の心に残る印象的な葬儀となる

無宗教葬儀は従来の葬儀より自由度が高く、音楽や映像を使った演出も可能です。故人が打ち込んでいた趣味の道具を飾ったり、ビデオを流したりすることで参列者はより故人を身近に感じることができるでしょう。

また、結婚式のように参列者からスピーチをしてもらうこともできます。手作り感があふれる、永く記憶に残る葬儀にすることが可能です。

宗教者への御礼が不要

先述したとおり、特定の宗教・宗派のもとで執り行われる葬儀では、宗教者への御礼が必須です。「第5回お葬式に関する全国調査(2022年)」によると、直近の御布施の平均額は22.4万円でした。御布施には戒名料も含まれ、位の高い戒名を授かると非常に高額になります。

無宗教葬儀のデメリット

菩提寺との関係を損なうことも

菩提寺がある場合、無宗教で葬儀を行うことで、菩提寺の心証を損ねかねません。また、寺院墓地に納骨するつもりが「戒名がないとお墓に入れない」と断られることがあります。墓石に故人の戒名を刻む必要から、生前の氏名である俗名では納骨できないと言われたケースがありました。

菩提寺には、無宗教葬儀で行いたい旨を事前に説明し、許可を得ることがたいせつです。どうしても了承されない場合、僧侶を呼んで仏式の家族葬を行い、のちに故人が希望したかたちでお別れの会を開くなどの折衷案もあります。

周囲からの理解が得られにくい

葬儀の規模が縮小され、宗教色のない葬儀を選ぶ人が増えました。しかし、そのことに否定的な人もいます。伝統的な宗教行事を、絶やしたくない気持ちが強い人たちです。その心情を汲みとり、よく話し合って理解を得るように努めましょう。

企画や準備に時間と手間がかかる

無宗教葬儀には決まった形式がないため、遺族や親しかった人たちで、式のプランを練る必要があります。仕事や家事、育児、介護などで多忙な人も多いでしょう。役割分担を決め、打ち合わせにはオンライン会議ツールを使う方法もあります。

自由すぎて進行のしかたがわからない

故人のエンディングノートに無宗教葬儀の希望があったものの、どのように葬儀を進行すればよいのか、見当もつかないことがあります。

その場合、インターネットでの情報収集が、最も早く手軽です。無宗教葬儀の経験が豊富な葬儀社を探して相談したり、企画の手伝いを依頼したりしてみましょう。

ただ、無宗教葬儀は一度も出したことがない、という葬儀社も多いのが現状です。何件かあたるつもりで探してみましょう。

無宗教葬儀を執り行う際のポイント

葬儀を挙げる家を喪家、その代表者を喪主といいます。ここでは喪家となった場合に留意したいポイントを押さえておきます。

無宗教葬儀とする理由を明確に

日本の葬儀のほとんどが宗教的に執り行われているなか、無宗教で行うにはさまざまな意味でハードルが高くなります。なぜ宗教色のない自由な形式を選ぶのか、喪主を中心にその理由を明確にしておきましょう。関係者間の意思疎通を図ることが、のちのトラブル回避にもつながります。

無宗教葬儀を執り行うもっとも有力な理由が「故人の遺志」です。次いで、故人も遺族も決まった宗教を持たない、宗教者への御礼をなくし、その分を他の演出やアレンジなどの費用に使いたい、などが考えられます。

無宗教葬儀に対する遺族、親族間の合意が必要

無宗教葬儀がまだ一般的なスタイルではないため、家族や親族から反対の声があがることがあります。特に地方では、その土地なりの風習が根強く残る傾向にあり「世間体が悪い」「お寺に顔向けできない」などの声が想定されます。反対者がいたら誠意をもって話し合いをし、納得してもらうように努めましょう。

無宗教葬儀に参列する際のマナーと注意点

新しいかたちの無宗教葬儀にはじめて参列することになり、戸惑いを感じる人も多いことでしょう。参列者としての注意点をあげてみます。

無宗教葬儀に招かれたら

服装は従来の葬儀と同様で、喪服を着用します。数珠は不要です。案内に「平服でお越しください」とある場合、男性はダークスーツ、女性は地味なスーツかワンピースを着用します。

平服とは普段着のことではありませんので、間違わないようにしましょう。しめやかな場に派手なメイクやヘア、ネイル、アクセサリーがふさわしくないのは一般的な葬儀と同じです。

香典は必要かどうか

香典とは、もともと仏式の葬儀で故人にたむけるお香を持参する代わりに包んだお金のことです。招かれた葬儀が会費制との案内がない限りは、香典を持参します。金額は従来の葬儀にならい、親族は1~10万円、職場関係、友人、近隣の人は5,000円が適当です。

もし、案内に「ご厚志お断り申し上げます」という一文があれば「香典、供花、供物をご辞退します」という意味です。その場合、香典は必要ありません。

香典の表書きは、宗教問わず使える「御霊前」が無難でしょう。香典袋は市販のものでかまいませんが、蓮の花の印刷があるものは仏式用ですので、白無地の袋を選びます。

いろいろな無宗教葬儀

音楽葬

音楽家として長年活躍したAさんは、葬儀では僧侶の読経のかわりに自分の作品を流し、皆で自由に自分との思い出を語り合ってほしいと願っていました。

エンディングノートにその思いを書き記し、生前に家族とのじゅうぶんな話し合いをして旅立ったため、遺族は故人の希望をかなえることができました。

ホテル葬

Bさんは社会的地位が高く、交友関係が広い人でした。しかし「自分の葬儀は家族のみで行ってほしい」と一筆書き残して亡くなりました。故人の遺志を尊重し、家族葬を執り行った遺族です。

しかし、多くのかたがたに弔問を辞退していただいたことを残念に思い、後日100人ほどを招いて、ホテルにて「お別れの会」を開きました。

レストラン葬

人気レストランのオーナーシェフであったCさんが亡くなりました。Cさんの料理やお人柄を愛した常連の人たちによる企画で「偲ぶ会」をCさんのレストランで開催することに。

生前の仕事ぶりの動画を流し、参列者は視聴しながら思い出話でひとときを過ごしました。

まとめ

この記事では、無宗教葬儀について、その性質や費用、開催にあたって注意すべき点を解説しました。

現状では無宗教葬儀は少数派であり、前例が少ないために費用の相場がわからない、菩提寺とトラブルになった、親戚の反対に遭うなどのマイナス面があることも否定できません。ある程度の時間をかけて、問題をクリアしてゆくことが大切です。

なお、一般的な葬儀の流れは、通夜、葬儀・告別式、火葬ですが、先に火葬を済ませ、遺骨にしてから葬儀を行っても問題がありません。それを「骨葬」といい、現在も多くの地域で行われています。

無宗教葬儀を執り行うにあたり、準備や周囲の説得に時間がかかる場合は、先に火葬を済ませられることも心にとめておきましょう。