遺産を相続することになった場合、相続税はどの程度必要となるのか、税金対策などで軽減できるかどうか気になっている方は多いのではないでしょうか。
今回の記事では、相続税はいくらまで無税なのか、基礎控除や税率など相続税の仕組みを解説しています。また税金を軽減できる特例制度や注意点を解説しているため、参考にしてみてください。
相続税とは
親や配偶者が亡くなった場合に、受け取る財産に対して掛かる税金を相続税と呼びます。お金以外にも不動産や有価証券、貴金属などさまざまなものが資産の対象となるため注意しなければいけません。
ただし、相続税には非課税枠が設けられています。どこまでが無税となるのか、基礎控除や税率を解説します。
相続税はいくらまで無税
相続税は、法定相続人が1人の場合は3600万円まで無税となります。まず、法定相続人とは、民法で定められている財産を相続できる人のことです。通常、配偶者や直系血族(子供、両親、祖父母など)が法定相続人に該当します。
遺言書が存在する場合、相続財産の分配は遺言書に従わなければいけません。この場合、法定相続人に限定されず、相続人の希望に従って財産を分けられます。
遺言書が存在しない場合、法定相続人同士で相続財産の分配を話し合い、合意を形成することが必要です。
相続税の基礎控除とは
相続税の基礎控除は、相続税の計算時に用いられる税金がかからない枠を指します。この控除額は、法定相続人の人数に応じて変動し次の式で算出されます。
「3000万円+(600万円×法定相続人の人数)」
したがって、法定相続人が1人の場合、基礎控除は「3000万円+(600万円×1人)=3600万円」となり、3600万円までの相続財産には相続税がかかりません。
法定相続人の人数が増えると基礎控除も増加し、より多くの相続財産が非課税枠内に含まれることになります。
相続税の税率は?
相続税は超過累進課税制度が採用されています。超過累進課税は、課税対象となる金額を複数の区分に分けて、区分毎に税率を掛けて算出する方法です。
具体的には次の税率が設定されています。
- 1000万円まで →10%
- 3000万円まで →15%
- 5000万円まで →20%
- 1億円まで →30%
- 2億円まで →40%
- 3億円まで →45%
- 6億円まで →50%
- 6億円以上 →55%
仮に6億円以上の財産がある場合は半分以上が税金として必要となるため注意が必要です。
例えば、相続財産が4000万円の場合は、1000万円×10%+(3000万円-1000万円)×15%+(4000万円-3000万円)×20%で、600万円になります。
この計算を簡易的に可能にする次の速算表が便利です。
取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000万円以下 | 10% | ー |
3000万円以下 | 15% | 50万円 |
5000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1700万円 |
3億円以下 | 45% | 2700万円 |
6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
4000万円の場合、20%の税率で200万円の控除となるため、600万円が税金となります。
相続税の税金を控除できる仕組み
基礎控除以外で、相続税の税金を控除できる仕組みを解説します。次の内容です。
- 小規模住宅地の特例
- 配偶者の税額控除
- 未成年者控除
- 死亡保険金の非課税枠
- 死亡退職金の非課税枠
- 障害者控除
- 相次相続控除
- 外国税額控除
- 贈与税の控除
多くの人に当てはまる特例制度などもあるため、参考にしてみてください。
小規模住宅地の特例
小規模住宅地の特例は、土地の相続で特定の条件に当てはまる場合、土地の評価額を減額できる特例制度です。この特例を利用することで相続税額の軽減が可能ですが、注意点がいくつかあります。
まず、減額される分は土地の評価額であり、相続税額そのものが80%減額されるわけではありません。減額された土地の評価額をもとに相続税が計算されます。
特例は土地にのみ適用され、建物には適用されません。特定の条件を満たす土地のみ、評価額の減額が行われます。
多くの人が、特例の適用条件として「特定居住用宅地」が当てはまり、土地の限度面積が330平米までの評価額を80%減額可能です。
配偶者の税額控除
配偶者の税額控除に関する特例は、配偶者が相続した遺産に対する制度です。配偶者が相続した遺産は1億6000万円まで非課税対象となります。
さらに、法定相続人分の基礎控除は別途適用され、その額も非課税枠となります。また、特例を利用するには条件を満たすことが必要であり、まずは戸籍上の配偶者であることが条件となっています。
また、申告書の提出や遺産分割の完了なども条件となっているため注意が必要です。
未成年者控除
未成年者控除は、未成年の相続人が相続税を減額できる制度です。未成年者控除の計算方法は、相続時の年齢を20歳から引き、その結果の数字に10万円を掛けることで控除できる額が計算されます。
特例制度の対象となるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 日本国内に住所があること
- 20歳未満であること
- 法定相続人であること(通常、配偶者や子供などが該当)
未成年者控除は、相続税の軽減に役立つ制度であり、未成年の相続人にとっては重要な考慮事項です。具体的な減額は相続人の年齢に依存し、相続時の年齢と相続財産の評価額に応じて計算されます。
死亡保険金の非課税枠
死亡時に支払われる保険金に対して税金が課されます。この税金に対して、死亡保険金の非課税枠は、一定の条件を満たす場合、一部または全部が非課税とされる特例制度です。
死亡保険金は、主に残された家族の生活保障を目的として支払われるため、非課税となる特例が適用されます。まず、死亡保険金の非課税特例は、法定相続人(配偶者、子供など)が保険金を受け取る場合に適用されます。
非課税枠は、法定相続人の数に応じて決定されるため注意が必要です。一般的に、法定相続人が1人の場合、500万円までが非課税とされます。複数の法定相続人がいる場合、それぞれに対して500万円の非課税枠が適用されます。
この非課税特例は、死亡保険金の一部または全部が非課税となり、遺族による生活保障が円滑に行われることの支援が目的です。
死亡退職金の非課税枠
死亡退職金は、亡くなった人が受け取る予定だった退職金を指し、死亡退職金として遺族が受け取ることになります。
死亡退職金に対しては、非課税枠が設けられています。この非課税枠は、通常は「500万円×法定相続人の人数」で計算可能です。
注意点として、死亡退職金の受け取り時期によって、関連する税金が異なることが挙げられるでしょう。死亡後3年以内に受け取る場合は相続税が関与し、3年経過していた場合は所得税とみなされ、受け取り人の所得として課税されます。
障害者控除
障害者控除は、相続人が障害を持っている場合に適用される特例で、一定の額を相続税から控除できる制度です。
障害者控除の適用条件には、障害者の精神障害者保健福祉手帳の等級や身体障害者手帳の等級が関与します。また、障害者は85歳未満でなければいけません。
障害者控除の額は、一般障害者の場合、10万円に85歳から相続時の年齢を差し引いた数字を掛けたもので計算されます。つまり、障害者が年齢を重ねるにつれて控除額は減少します。
障害者控除額が相続税額よりも大きい場合、障害者に対して扶養義務がある相続人にとっても、障害者控除の余分が相続税に適用できることがポイントです。
相次相続控除
相次相続控除は、10年以内に再度相続が発生した場合に、相続税を軽減できる特例制度です。一次相続と二次相続の概念を理解する必要があります。
一次相続とは、例えば両親の死亡で配偶者と子供が相続人となる場合です。その後、三年以内に配偶者も死亡した場合、子供が再度相続人となり、子供にとっては両親の財産を再び相続することになります。これが二次相続です。
一次相続から二次相続までの期間に応じて、相次相続控除の額が変動します。期間が短いほど控除額が大きくなり、相続税の軽減効果が高いです。
外国税額控除
外国税額控除は、国外にある財産に対して、外国と日本それぞれの相続税が課されることを防ぐための制度です。同じ財産に対して外国と日本の両方で相続税がかかると二重課税となりますが、外国税額控除はこの問題を解決します。
具体的には、外国で支払った相続税額を、日本の相続税から差し引くことが可能です。これにより、同じ財産に対して日本と外国で相続税が課される場合でも、支払った外国の相続税分を控除することで二重課税を回避できます。
外国税額控除は、国際的な相続や財産移転に関連する複雑な税制問題を解決し、財産の移転を円滑にするために重要な制度です。ただし、外国の税制や規則は国によって異なるため、具体的な事例は税務署や税理士に相談することが必要となるでしょう。
贈与税の控除
贈与税は贈与された財産に課税される税金で、年間110万円まで非課税です。ただし、相続開始前の3年間に受け取った贈与に関してのみ、相続税として扱われます。これが「生前贈与加算」です。
生前贈与加算は、3年間に受け取った贈与の額を合算して、相続時に遺産に加算するものです。生前贈与加算は、不当に相続税を回避するための贈与を制約する役割を果たします。
一方で、贈与を受けた場合に贈与税を支払っている場合は、相続税からその分を控除可能です。これにより、一度支払った贈与税が二重課税されることを防ぎます。
具体的な相続税の価格はいくらになるのか
次のケースの相続税を考えてみましょう。
- 被相続人 →父
- 相続人 →母、長男(21歳)、次男(17歳、障害あり)
- 相続財産 →預金4000万円、自宅1億円
まず、基礎控除は次の式となります。
3000万円+(600万円×3人)=4800万円
そのため、課税対象となる相続財産額は次の式です。
1億4000万円 - 4800万円 =9200万円
法定相続人で、この相続財産を按分すると、次の相続財産となります。
- 母 →4600万円
- 長男 →2300万円
- 次男 →2300万円
よって、速算表を使用して算出されるそれぞれの相続税は次の内容です。
- 母 →720万円
- 長男 →295万円
- 次男 →295万円
ただし、相続税控除の特例制度を活用することで次の税金となります。
- 母 →0円(配偶者の税額控除を活用)
- 長男 →0円(次男の障害者控除の余分を活用)
- 次男 →0円(障害者控除、未成年控除を活用)
この例からも、相続税控除の特例制度が重要なことが分かります。
基礎控除の注意点
基礎控除は、相続税軽減の重要な要素です。基礎控除で注意するべきは法定相続人の人数であり、養子縁組や相続放棄、代襲相続のケースを解説します。
養子縁組の相続人の数
基礎控除に関する注意点として、養子縁組の相続人の数が挙げられるでしょう。養子縁組が、法定相続人の中に含まれるかどうかは実子の有無に依存します。
実子がいる場合、養子は1人までが法定相続人です。一方で実子がいない場合、養子は2人まで法定相続人に加えられます。したがって、基礎控除の計算では、養子の数が最大2人まで考慮され、その分の基礎控除が適用可能です。
相続放棄した人がいる場合
相続放棄した人がいるかどうかは、基礎控除の人数に影響を与えません。
つまり、基礎控除の計算で相続放棄したかどうかは影響せず、相続放棄がなかったものとして法定相続人の人数をカウントします。
代襲相続が起きる場合
代襲相続が起きる場合も注意が必要です。
代襲相続は、相続が発生した際にすでに相続人が亡くなっている場合、その亡くなった相続人の子供が相続人の地位を受け継ぐことを指します。代襲相続が発生すると、子供たちは法定相続人として認められ、その人数は基礎控除や死亡保険金・死亡退職金の非課税枠など、相続税の計算に影響を与えるでしょう。
代襲相続が発生した場合、子供の人数が法定相続人の人数としてカウントされるため、基礎控除や非課税枠が増加し、相続税負担が軽減される可能性が高まります。
相続税の申告方法
相続税をどのように申告するべきか、申告期限を過ぎてしまった場合の対応を解説します。
いつまでに申告するべきか
被相続人の死亡を知った翌日から10か月以内が申告期限です。この期限内に相続税の申告を行わなければいけません。
原則として、相続税は現金での一括納付が求められます。つまり、相続税の申告時にその税金を支払わなければいけません。納期限も申告期限と同じく、死亡を知った翌日から10か月以内です。
まず、相続の際に遺言書が存在するかどうかを確認しましょう。遺言書がある場合、その内容に従って財産分割が行われます。遺言書が無い場合、法定相続人が遺産分割協議を行うことが通常の手続きです。
申告期限を過ぎていた場合
相続税の申告期限を過ぎた場合、注意しなければいけないポイントがあります。
申告期限を過ぎても相続税を納付しなければいけません。現金での一括納付が難しい場合は、クレジットカードでの納付が可能な場合があります。
納付が難しい場合、担保を提供して相続税を分割払いにする延納や、不動産などの財産で納税する物納といったオプションが利用可能です。ただし、これらのオプションは手続きが複雑であり、金利や追加の税金が発生することがあるため、慎重に検討しなければいけません。
申告期限を過ぎた場合、追加の税金が発生することがあります。遅延税や利子税などの罰則が科せられ、納税額が増加する可能性があるため、期限を守ることが重要です。
まとめ
今回の記事では、相続税がいくらまで無料なのか、相続税の基本的な内容を解説しました。相続税には基礎控除があるため、その範囲内であれば相続税は掛かりません。
基礎控除は法定相続人の人数によって変わり、次の式で表されます。
「3000万円+(600万円×法定相続人の人数)」
また、配偶者の税額控除や未成年控除など、活用できるさまざまな特例制度があります。今回は、9つの特例制度を紹介している他、相続税の申告方法や注意点も解説しているため、突発的に起こる相続に関して参考にしてみてください。