近年、新たな埋葬方法として樹木葬への関心が高まっています。
この記事では、樹木葬の概要、種類、埋葬方法、費用相場、樹木葬を行うまでの流れについて解説します。
樹木葬を行う上でのデメリットや注意点についても紹介しています。把握しておくことで納得のいく埋葬方法を選べるでしょう。
また既にお墓を持っている場合の改葬方法についても解説しているので、現在のお墓から移したいと考えている方も参考にしてください。
樹木葬とは
樹木葬とは、遺骨を埋葬した場所に墓石ではなく樹木や花を植える供養方法です。
承継者による管理の必要がない点、広い土地に多くの遺骨を埋葬できる点などが、少子化による承継者問題や、土地不足問題の解決に繋がるとして近年注目を集めています。
樹木葬の歴史
日本で初めて樹木葬が行われたのは1999年です。
岩手県一関市の祥雲寺というお寺で行われました。山林一帯を墓地として遺骨を埋め、低木類を側に植えるスタイルでした。
山林の緑化再生を兼ねていたとも言われています。
2006年には公営墓地としては初めて、横浜市営墓地メモリアルグリーンで樹木葬の区画が作られました。
樹木葬はその後広がっていき、多くの霊園で人気を集めており、入るには高い倍率となっています。
特に公営霊園では人気が高く、関東の公営霊園では樹木葬の倍率が15倍以上になることも珍しくありません。
樹木葬の種類

樹木葬はその広さや自然環境に応じて3つのカテゴリーに分類されます。
庭園スタイル
庭園スタイルは霊園や寺院内の限定されたエリアに、木々が植えられているタイプの樹木葬です。ガーデンスタイルとも呼ばれます。
まるで霊園や寺院内に庭が設けられているかのように整理されていて、手入れが行き届いた美しい植物に囲まれた空間で埋葬できるのがメリットです。
里山スタイル
里山スタイルは山林に埋葬するタイプの樹木葬です。遺骨を埋めた後、シンボルツリーを植樹します。
日本で最初の樹木葬も里山スタイルでした。樹木を植えることで森林を保護する目的もあります。
自然の土に埋葬するため、樹木葬の中でも自然への回帰を強く望む人に選ばれる供養方法です。
ただし山林なので、アクセスが悪い場合や埋葬場所が判別しにくいデメリットがあります。
公園スタイル
公園スタイルは霊園や寺院内に芝生を植えたりして、公園風の空間にした場所で埋葬するタイプです。
自然環境を人工的に再現した空間なので、里山スタイルほど自然への回帰感はありません。
しかし施設が整っていることが多いため、お参りする人にとって利便性が高いというメリットがあります。
樹木葬の埋葬方法
遺骨の埋葬方法は3つに分けられます。
個別埋葬タイプ
区切られたエリア内に1人分の遺骨を個々に埋葬する手法です。
一般的な墓石スタイルのお墓と同様に、どの位置に故人が埋葬されているかが把握しやすく、お参りしやすいという特徴があります。
ただし維持費や土地の利用料などが必要なため、樹木葬の中で比較的費用が高くなります。
共同埋葬タイプ
1つのシンボルツリーの周囲に複数の遺骨を埋葬する方法です。
1つのシンボルツリーですが、区別して埋めるため、他の人と遺骨が混ざることはありません。
個別埋葬スタイルに比べて、比較的費用が抑えられます。
合祀タイプ
合祀スタイルも1つのシンボルツリーの周辺に複数の遺骨を埋葬する方法です。
遺骨を粉砕して区切らず埋めるため、他の人と遺骨が混ざる点が共同埋葬タイプとは異なります。
他の遺骨と混ざるため、後から取り出すことはできません。
そのため、慎重な選択が求められるほか、分骨を検討することも必要です。
維持費などが必要ないため最も費用を抑えられる方法です。
ただし、他の人と遺骨が混ざることが受け入れられない親族がいる場合、選択が難しいかもしれません。
樹木葬のメリット
樹木葬が注目を集めているのは、次のようなメリットがあるためです。
承継者がいなくても安心
樹木葬は基本的に永代供養の場合が多いです。
永代供養の場合、土地の管理などは霊園や寺院が行ってくれます。
そのため残された家族が定期的に清掃をしたり、墓を引き継ぐという必要がありません。
承継者がいない、または残された家族の負担を減らしたいという方におすすめです。
費用を抑えられる
樹木葬は一般的に墓石を建てるよりも費用を抑えられるのがメリットです。
墓石代、工事費、管理費用など一般的な墓石を建てる場合には様々な費用が掛かります。また寺院墓地の場合にはお寺へのお布施がかかることもあります。
樹木葬の場合には、それらの費用が掛かりません。
費用を少しでも抑えた供養をしたいという方におすすめです。
どんな宗教宗派でも利用できる
樹木葬の場合、寺院墓地であっても宗教宗派不問としている所が多いです。
自然に還る供養方法のため、基本的に宗教や宗派は関係ありません。
無宗教の方や、どこかのお寺に入壇するのに抵抗があるという方におすすめです。
明るい雰囲気
樹木葬は、明るい雰囲気で景観がいいというメリットがあります。
一般的な墓石が並んでいる墓地には暗いイメージを持つ方も多いでしょう。
しかし樹木葬の場合、四季折々草花が植えられていることが多く、自然の美しさが感じられる解放的な雰囲気になります。
故人も明るい雰囲気の中で眠ることができますし、お参りする側も明るい場所で故人に想いを馳せることができます。
自然が好き、暗い雰囲気が苦手という方におすすめです。
「家」に縛られずに一人で入れる
墓石のお墓では「○○家の墓」と、家単位で先祖代々が眠っているところに入るのが一般的です。
しかし樹木葬の場合は、家に捉われることなく、自身一人だけや夫婦や家族単位で入ることもできます。
「家」や「先祖代々」という考え方に捉われたくない、という方におすすめです。
自然に還ることができる
自然葬は木や花の元に埋葬されることから自然に還る供養方法と言われています。
特に里山型の場合には、山林に埋葬されることから自然に帰すという思想を叶えることができます。
自然が好きだったという 方、亡くなったら自然に還りたいという方におすすめです。
樹木葬のデメリット
樹木葬には次のようなデメリットもあるので把握しておきましょう。
遺骨を取り出せない
樹木葬は自然に還す供養方法のため、骨壺から出して袋などにいれて埋葬することもあります。その場合、遺骨を後から取り出したりすることが難しいです。
また合祀タイプの場合には、他の方の遺族と混ざってしまうため、基本的に取り出すことはできません。
もし遺骨を残しておきたい場合には、別の埋葬方法を検討するか、分骨をして一部を保管しておきましょう。
粉骨が必要
霊園や寺院によって、限られた土地内に埋葬することから、遺骨の粉砕が必須の場合があります。
特に都心部では土地が狭いためその傾向が強いです。
遺骨を粉砕してしまうことに抵抗がある方は別の埋葬方法を検討しましょう。
また分骨する選択肢もあります。
親族の理解が得られないことも
樹木葬は比較的新しい供養方法のため親族の理解が得られない場合もあります。
先祖代々のお墓にはいる事を重んじる方もいらっしゃいます。
特に他の遺骨と混ざることもある合祀型に抵抗を持つ方がいるかもしれません。
後々トラブルにならないように事前に親族の理解を得ておきましょう。
アクセスが悪い可能性がある
里山型の場合、都心部から離れていたり、駅から遠い距離にある可能性が高いです。
アクセスが悪いと、定期的なお参りには不便です。
事前に見学などで実際に場所を訪れて、通うのに不便でないかを確認しておきましょう。
季節によって寂しい雰囲気の場合も
植物なので季節によって景観に大きな違いがあります。
特に冬に花や葉が落ちる植物が多いため、冬には寂しい雰囲気になる可能性が高いです。
パンフレットなどでは綺麗な季節の写真が使われることが多く、実際に行ってみると雰囲気がイメージと異なるということもあります。
そのため可能なら冬にも見学に行ってみることをおすすめします。
お供えができない
樹木葬は虫が寄ったりしないようにと、線香やろうそく、お供え物が制限されていることがあります。
場所によっては、お供えものを置いたり線香やろうそくなどでお参りができる台などが用意されている場合もあるので問い合わせてみましょう。
どこに手を合わせていいか分からないことも
シンボルツリーの周りに複数埋葬をする、共同埋葬タイプや合祀タイプの場合、亡くなった方の遺骨がどこにあるのか分からず、どこに向かって手を合わせたらいいのか分からないという場合もあります。
またお参りができる台などが、シンボルツリーから少し離れた場所に設置されている場合なども、故人に対して手を合わせている感覚がなくなってしまったという声も聞かれます。
樹木葬の費用相場
樹木葬の費用相場は、埋葬方法によって変わります。
合祀タイプの場合が最も安価で、費用相場は5~20万円です。
共同埋葬タイプの場合は、15~60万円、個別埋葬タイプは50~100万円と少し割高になります。
上記は「墓地使用料」と呼ばれる基本的な費用の部分で、霊園や墓地によって下記の費用も必要となる場合があります。
永代供養料
霊園や寺院が遺骨の供養を行うための費用です。
樹木葬の場合には、基本的に永代供養であることが多く、上記の墓地使用料に含まれている場合もあります。
個別埋葬タイプや共同埋葬タイプでも数年間経つと合祀され永代供養されることが多くなります。
合祀されるまでの年数は霊園や墓地によって、または契約内容によって異なるため確認をしておきましょう。
埋葬料
遺骨を埋葬する際にかかる費用です。こちらも墓地使用料に含まれている所もあります。
家族全員で利用する場合には、埋葬するごとに費用が発生する場合もあるため、複数人で使用する場合には比較的費用が安い樹木葬でも割高になる可能性もあります。
彫刻料
遺骨を埋葬した場所の付近に、ネームプレートのようなものを設置できる場合があります。金属や石材に名前などを残すことができます。
このネームプレートを作成することで、どこに故人が眠っているのか分からなくなるというデメリットを避けることになります。
樹木葬を行うまでの流れ
それでは実際に樹木葬を行うまでの流れを解説します。
申し込みまでの流れ
まずは樹木葬を行うにあたり、申し込みをして樹木葬を行える状態にするまでの流れを解説します。
樹木葬についての情報収集
樹木葬についてインターネットなどで情報を集めましょう。自宅からのアクセスや価格など、条件に合った霊園や寺院のパンフレットなどをもらい、検討します。
現地での見学
見学予約をして現地に足を運び、実際の雰囲気や周辺環境、交通アクセスなどを確認します。
分からないことや季節ごとの景観の違いなどは、担当者に質問して不安を解消しておきましょう。
契約と支払い
条件などを確認して場所を決めたら、申し込みを行い、必要な費用を支払います。
現地での見学の際にすぐに決断しなくても、一度家でじっくり検討してから申し込んでも問題ありません。
使用許可証の発行
入金が確認されると、使用許可証を発行してもらえます。これにより樹木葬の使用者として登録されたことになります。
亡くなってから埋葬までの流れ
ここからは亡くなってから埋葬までの流れです。
死亡届の提出
亡くなったら、役所に死亡届を提出します。死亡届が受理されると火葬許可証を発行してもらえます。
この手続きは葬儀社が代行することもできます。
火葬を行う
火葬場に火葬許可証を提出し、遺体を火葬します。火葬が終わると、埋葬許可証として火葬許可証が返却されます。
埋葬許可証の提出
樹木葬の管理者に埋葬許可証を提出し、埋葬日を決定します。
当日は遺骨を持参します。
墓地の埋葬方法に応じて、事前に粉骨を行う必要がある場合があります。
既にお墓があり、改葬する場合
既にお墓があり、樹木葬に改葬する場合には少し別の手続きが必要になるので、解説します。
受入許可証を受け取る
見学をして樹木葬を行える霊園や寺院を探して、契約を行うところまでは新しく購入する場合と一緒です。
契約時に、新しい墓地の管理者から「受入証明書」を受け取ります。後々の手続きで必ず必要となります。
現在のお墓管理者への相談と埋葬証明書の受取り
新しいお墓が決まったら、現在のお墓の管理者に改葬について相談を行います。
撤去日や撤去にかかる費用などを話し合い、現在のお墓に入っている遺骨に関する「埋葬証明書」をもらいます。
この証明書も後の手続きで必要となります。現在のお墓が寺院墓地の場合は、代々のお墓を管理してくださっていたことに対する感謝の言葉を伝えつつ、相談の形で切り出すことが重要です。
寺院墓地の場合、離檀料の支払いを求められる場合もあります。金額はお寺によって異なりますので、相談してみましょう。
市区町村役場での改葬手続き
新しい墓地の「受入証明書」と現在の墓地の「埋葬証明書」を持って市区町村役場で改葬手続きを行います。手
続きが終わると、「改葬許可証」が発行され、新しいお墓への改葬ができるようになります。
閉眼供養・墓じまいを行う
遺骨を現在のお墓から取り出します。お墓を撤去する場合には閉眼供養という、墓石から魂を抜く儀式を行います。
そして墓石を撤去して更地にしたら、管理者への返還が完了します。
埋葬する
新しく契約をした埋葬場所へ埋葬します。
場所によって骨壺にいれたまま、袋に入れる、粉骨するなど方法の指定があるのでそれに従いましょう。
まとめ
この記事では樹木葬について解説しました。
樹木葬は自然に還ることができる供養方法で、承継者がいなくても安心、そして比較的安価なことから注目を集めています。
季節によって想像と異なったり、交通の便が悪かったりする可能性もあるので、必ず事前に見学をしましょう。比較的新しい埋葬タイプなので、親族の理解を得ることも大切です。
デメリットなども把握したうえで、比較検討して納得した埋葬方法を選びましょう。