葬儀が終わりほっとする間もなく、遺族は各種手続きを行わなくてはいけません。市区町村への届出やガス、水道、電気の名義変更などは比較的簡単です。
しかし、故人が財産を保有していた場合は「遺産相続」が発生し、金額によっては申告したうえで相続税を納める必要があります。申告の際に、被相続人(故人)の「債務」と「葬儀にかかった費用」は相続財産から差し引くことができます。
相続税が発生する場合、債務と葬儀費用を差し引くことで、納税額を減らすことにつながります。ただし、控除される葬儀費用には、認められるものとそうでないものがありますので、注意が必要です。
相続税の申告納税は相続が発生した日の翌日から10か月以内、遺産の一部を相続する限定承認と、すべての遺産の相続をしない相続放棄は、相続を知った日から3か月以内です。
この記事では、葬儀後に行う各種手続き、および相続税の申告納税、相続財産から差し引くことができる葬儀費用について解説します。
葬儀後に行う手続き
最初に、葬儀後の各種手続きを「公的手続き」「名義変更・解約」「相続人確定後の手続き」の3つに分けて説明します。
公的手続き
まず、必要な公的手続きをあげます。手続きに必要な書類は、市区町村や勤務先などの関係機関にお尋ねください。
- 故人が世帯主だった場合、死後14日以内に世帯主変更を市区町村役場に届出ます。
- 故人が国民健康保険の被保険者だった場合、速やかに市区町村役場へ資格喪失届および被保険者証の返却をします。また、喪主は葬祭費の請求ができます。請求期限は葬儀の日から2年以内です。
- 国民年金の遺族基礎年金請求は5年以内です。届出制のため、手続きをしないと支給されません。市区町村役場に届出ます。
- 国民年金の死亡一時金は2年以内に市区町村役場に申請します。遺族基礎年金を受け取っている場合は支給されません。
- 厚生年金の遺族厚生年金は、2年以内に年金事務所または年金相談センターに申請します。支給には条件がありますので、問い合わせてください。
- 労災保険、雇用保険、その他各種給付金は勤務先の総務課などで手続きをしてもらいます。
名義変更・解約
- 電気、ガス、水道が故人の名義になっていた場合、速やかに所轄の営業所で名義変更、または停止の手続きをします。
- 固定電話の名義変更、停止は速やかにNTTなどに届出ます。
- 故人の住居が賃貸物件だった場合、速やかに家主、または不動産会社、管理会社などに連絡します。
- 故人名義のクレジットカード、携帯電話、プロバイダの解約をします。
- 運転免許証は最寄りの警察署に、パスポートは都道府県の旅券事務所(パスポートセンター)に返却します。
相続人確定後の手続き
- 相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日(通常、被相続人が亡くなった日)の翌日から10か月以内に行います。税理士に、相続税額の試算や相続税申告の代行を依頼することができます。
- 不動産の名義変更(相続登記)は、速やかに法務局で手続きをします。司法書士に代行してもらうこともできます。
- 生命保険は、コールセンターや保険会社の担当者に連絡し、必要書類を整えて請求します。
- 預貯金、株券、債権の名義変更は、速やかに銀行、証券会社で行います。
- 自動車の名義変更は速やかに陸運局(陸運支局)で行います。司法書士やディーラーに代行してもらうこともできます。
遺産相続の流れ
故人の所有財産は「遺産」となる
人が亡くなると、その人が所有していた財産は「遺産」となり、遺産を引き継ぐことを「遺産相続」といいます。
遺産相続と聞くと「我が家は年金暮らしで貯金もほとんどないので関係がない」と考える人が多いかもしれません。しかし、相続対象は預貯金や土地・家屋だけとは限りません。
遺産相続の対象となるもの|プラスの財産とマイナスの財産
相続の対象となるものには、預貯金などのプラスの財産と、債務などのマイナスの財産とがあります。プラスの財産としては、預貯金のほかに不動産、有価証券、生命保険、死亡退職金などが大きな部分を占めます。
一方、マイナスの財産とは、故人の借入金で、いわゆる借金です。金融機関や個人からの借入金、住宅や自動車のローンもマイナスの財産として相続されるものです。
その他、亡くなった時点で未払いとなっているものも、マイナスの財産として相続の対象となります。主なマイナスの財産を列記すると、以下のようになります。
マイナスの財産例
- 借入金
- 住宅ローン
- 自動車ローン
- クレジットカード未払い金
- 賃貸物件の場合、家賃の未払い金(管理費、駐車場代などを含む)
- 水道光熱費や通信費の未払い金
- 医療費やリース料などの未払い金(病院で亡くなった際の入院費など)
- 税金の未納分(住民税、所得税、固定資産税、自動車税など)
- 買掛金
- 土地を貸している場合の敷金や保証金(借主に返金するべきもののため)
相続対象財産は意外に多い
遺産は預貯金や土地・家屋だけに注目されがちですが、相続する資産には預貯金を含めて以下のようなものがあります。課税される主なものをあげてみます。専門家の鑑定や査定が必要となるものも、多く含まれます。
- 預貯金
- 現金
- 土地・建物、借地権
- 自動車、バイク
- 農機具
- 船舶
- 美術品、骨董品、宝石、貴金属、着物
- 家具、家電
- 有価証券(株や債券など)
- 貸付金、立替金などの債権
- 知的財産権(商標権や特許権、著作権など)
- ゴルフ会員権、リゾート会員権
- 生命保険金(非課税枠あり)
- 死亡退職金(非課税枠あり)
生命保険の死亡保険金や死亡退職金は、もともと故人の財産ではありませんが、亡くなったことで財産となるものです。これを「みなし相続財産」といい、相続税の対象となります。
相続放棄・限定承認とは
前述したとおり、相続財産にはプラスの財産とマイナスの財産とがあります。相続人は、プラスとマイナス両方の財産を受け継ぐことになります。
プラスの財産だけを相続することはできません。また、欲しい財産だけを選んで相続することもできません。
つまり「親の貯金は相続するが、借金は相続しない」や「貯金は相続したいが、家や車はいらない」ということは法律上できないわけです。原則として、相続人はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐべきとされ、それを「単純承認」といいます。
いざ遺産を相続しようとしたところ、預貯金や不動産の価値を上回る負債がある場合にとられる方法として、「単純承認」に対し「相続放棄」と「限定承認」があります。相続開始を知った日から3か月以内に、家庭裁判所に申し立てます。
相続放棄とは
マイナスの財産が大きいため、プラスの財産も含めてすべてを相続しないことを相続放棄といいます。相続放棄をしても、死亡保険金は受け取ることができます。
限定承認とは
マイナスの財産がプラスの財産を上回るとき、プラスの財産の上限までマイナスの財産も相続することです。マイナスの財産が明らかに大きいため相続放棄をしたいが、プラスの財産のなかにどうしても相続したい財産がある、という場合に有効です。
たとえば、土地、家屋や家業継承のための設備などは相続したく、その評価額が1,000万円、故人の借金が2,000万円だった場合、プラスの財産の上限である1,000万円まではマイナスの財産である借金も引き継ぐ方法です。
上記のほか、預貯金などプラスの財産はわかるが借金額は不明、プラスとマイナスの財産がほぼ同額と思われる場合も考慮される方法です。
ただし、手続きが非常に複雑で、家庭裁判所での手続き期限も3か月以内と短いため、税理士など専門家に依頼するケースがほとんどです。
相続の詳細については、国税庁の「相続税の申告のしかた(令和4年分用)」を参照してください。
相続財産から控除できる葬儀費用
相続が確定して、名義変更などが済んだら申告納税を行います。ただし、相続税には「基礎控除」があります。相続額から基礎控除額を引いた額が一定の範囲に収まっていれば、課税されません。
基礎控除額は以下の数式で計算します。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
例)法定相続人が配偶者のみの場合、3,600万円です。
配偶者と子1名の場合、合計2名ですので、3,000万円+600万円×2=4,200万円です。
つまり、法定相続人が多いほど基礎控除額が大きくなります。
※法定相続人とは
「民法によって定められた遺産を相続する人」です。優先順位があり、配偶者はつねに相続人、第1順位が直系卑属(子や孫)、第2順位が直系尊属(父母、祖父母)、第3順位が兄弟・姉妹です。通常、配偶者と第1順位の子が法定相続人となります。第1順位の人がいない場合、第2順位の人が、第1順位と第2順位の人がいない場合、第3順位の人が相続人となります。
基礎控除を上回る財産がある場合には、申告納税の義務があります。その際、財産から差し引くことができる項目が「債務」と「葬儀費用」です。債務に関しては、「マイナスの財産例」で説明した内容を参照してください。
近年、葬儀規模が縮小傾向にあり、葬儀に多くの費用をかけない考えをもつ人も増えました。しかし、従来の葬儀形式である一般葬を執り行うと費用はおおよそ200万円で、大きな出費となります。
葬儀費用が相続財産から控除されると、結果として納める相続税を引き下げることができます。
ただし、葬儀費用として認められるものと、認められないものがありますので注意が必要です。以下に、葬儀費用になるもの、ならないものについて説明します。
葬儀費用となるもの
葬儀費用として控除されるのは、葬儀に必ず必要と認められるものに限られます。以下が該当します。
葬儀・告別式、火葬、納骨にかかった費用
葬儀費用として、葬儀社に支払った代金が該当します。また、国税庁によると、告別式を2回行った場合、両方にかかった費用が認められるとあります。たとえば、現住所で告別式を執り行った後、出生地でも告別式を行った、などのケースです。
会葬者への会葬礼状・返礼品(香典の有無にかかわらず参列者全員に当日渡すもの)は葬儀費用に含まれます。ただし返礼品と香典返しの両方を渡した場合で、返礼品のみを渡している場合は香典返しとみなされて、葬儀費用から控除されませんので注意が必要です。
火葬場使用料や、石材店に支払った納骨作業代も含まれます。墓石への彫刻料は含まれませんので、請求書の内訳を確認する必要があります。
遺体や遺骨の搬送費用
病院や施設から、自宅や安置場所への搬送費用などが該当します。葬儀後に火葬場に向かう霊柩車代は葬儀社のプラン料金に含まれていることが多いですが、葬儀費用として認められます。
通夜、葬儀・告別式の前後にかかった費用
通夜ぶるまいや、葬式後の精進落としにかかった会場費や飲食代が該当します。葬儀会場や火葬場までの交通費も含まれます。
宗教者への御礼
仏式葬儀で僧侶に渡す「御布施(読経料と戒名料)」、神式葬儀で斎主に渡す「御祭祀料」や他の神官への「御礼」、キリスト教式葬儀で神父または牧師に渡す「献金」やオルガン奏者や聖歌隊への「御礼」が該当します。御礼のほかに、御車代や御膳料を渡した場合、その金額も含まれます。
手伝いの人への謝礼、心づけ
葬儀のための人手が必要になり、手伝いを頼んだ人に渡した謝礼、葬儀会場や火葬場のスタッフ、霊柩車、ハイヤー、マイクロバス運転手などに渡した心づけも含まれます。
死亡診断書料
死亡診断書(死体検案書)は火葬(埋葬)許可書を発行してもらうために必要です。病院で死去し死亡退院となった場合、最後の入院費の領収書内訳「文書料」に金額が記載されています。
葬儀費用に含まれないもの
葬儀費用として控除されないのは、葬儀と直接関係がないもので、以下が該当します。香典返しの費用は控除が認められそうに思えますが、葬儀費用には含まれません。
- 香典返しのためにかかった費用
- 墓石や墓地の購入費用や墓地を借りるためにかかった費用
- 初七日や法事などのためにかかった費用
控除のために必要なもの
葬儀費用の領収書
葬儀に関わる買い物は、レシートか領収書を必ず受け取りましょう。葬儀社への支払が済んだら領収書と明細書の内容を確認し、保管します。
領収書がない場合はメモでも可
宗教者への御礼や手伝ってくれた方々への謝礼、心づけなどは領収書が発行されません。御礼などを渡す際に、金額を入れた領収書を持参してサインをしてもらう方法もあります。
ただし、詳細なメモ(支払目的、支払先名称、支払先住所、連絡先、支払年月日、金額)があれば申告できます。
葬儀費用の明細記入事項
申告書類に以下の項目を記入する必要があります。支払先の名称だけでなく、住所または所在地も必要です。
- 支払先(氏名または名称・住所または所在地)
- 支払年月日
- 金額
- 負担する人の氏名
- 負担する金額
下記リンクの冊子103ページに「債務及び葬式費用の明細書」記入例と説明があります。参照してください。
まとめ
この記事では、葬儀後の各種手続きと遺産相続の手続きについて解説しました。遺産相続では、金額により相続税を納める義務が生じます。
しかし、葬儀に直接かかった費用は遺産から差し引くことができるため、領収書や明細書、レシート、その他支払った金額のメモなどを保管、整理し、申告に備えましょう。