家族が亡くなることは、その人が高齢であったとしても、闘病中で覚悟ができていたとしても、たいへん悲しいことです。それでも悔いが残らないように、故人を見送るための準備にとりかかるのが、遺された者たちのつとめです。
葬儀は多くの手順を踏んで執り行われるため、様々な打ち合わせが必要です。この記事では、故人を見送るために必要な打ち合わせの内容や、トラブルに発展しがちな点を解説します。
逝去後はすみやかに家族、親族間での話し合いを行い、葬儀業者と打ち合わせをし、宗教的なことは宗教者と打ち合わせを行います。
家族、親族間の打ち合わせ
エンディングノートを確認
近年「終活」の概念が広まり、エンディングノートを活用する人が増加中です。
故人のエンディングノートに、葬儀についての希望がないか、確認しましょう。エンディングノートの記載内容に、法的効力はありません。しかし、可能な限り遺志を尊重したいものです。
決定事項
喪主を決める
通常は配偶者、親、子、兄弟姉妹のように故人と縁の深い人が喪主になります。配偶者が高齢になるにつれ、子がつとめることが多くなります。
地域や一族によっては、昔ながらの決まりごとがあります。たとえば、喪主は男性がつとめるべきという考えが残る地域や家もあります。ただし、現在では男性優先の喪主決めは、あまり見られなくなりました。
必要があれば施主を決める
施主とは、葬儀の金銭負担をする人のことです。個人葬では、喪主が兼任することがほとんどです。喪主が高齢、逆に若すぎる場合、喪主とは別に施主を決めることがあります。
葬儀形式を決める
現在、葬儀形式は従来の葬儀である「一般葬」、家族やごく親しい人だけで送る「家族葬」、通夜を行わないで葬儀のみを行う「一日葬」、通夜、葬儀・告別式を行わず火葬のみで送る「直葬」に分けられています。また、家族だけで火葬まで済ませ、後日「お別れの会」や「偲ぶ会」を開くケースもあります。
故人の年齢、社会的立場、交友関係、在職中であったかを考慮し、葬儀形式を決めます。故人が高齢で参列者が少ないと思われるときは、家族葬や直葬などのコンパクトな形式が選ばれることが多くなりました。
宗旨宗派
宗教の観点からは、葬儀を「宗教葬」と「無宗教葬」とに分けて考えます。日本では特定の宗教を持たない人が多いのですが、葬儀の9割は仏式で執り行われています。菩提寺がある場合、その寺院に枕経から火葬までお願いするのが自然です。
故人がキリスト教徒の場合は、所属教会で葬儀を執り行うようになります。故人が信仰していた宗教があれば、その宗教で葬儀をあげるのが一般的な考えかたです。
葬儀規模を決める
葬儀会場や予算を決めるため、参列者数を予測し、おおよその葬儀規模を決めます。仕事関係の付き合いや交友関係は、年賀状、パソコンやスマートフォンのアドレス帳から推測できることもあります。
不幸があると、地域のほとんどの人が葬儀に参列する風習が残る地方もあります。その場合は、故人が高齢であっても参列者は多くなります。
予算を決める
葬儀において、予算決めは非常に重要です。葬儀費用は、①葬儀一式にかかる費用、つまり葬儀社への支払い ②宗教者への御礼(仏式の御布施にあたるもの) ③通夜ぶるまいや精進落としの接待飲食費、の3つが大きな部分を占めます。
その他、手伝ってくれた人たちへ謝礼、葬儀スタッフや運転手へ心づけを渡します。また、遠方からの会葬者の交通費や宿泊費を負担する場合もあります。そのため、ある程度の予備費が必要です。
葬儀会場について
葬儀会場は寺院や教会、斎場、公民館、集会場、ホテル、自宅などが候補です。現在、多くの葬儀は斎場で執り行われています。
自宅で通夜から葬儀・告別式まで行った時代もありましたが、住宅事情も変わり、自宅での葬儀はあまり見られなくなりました。
参列者も高齢化しつつある現在では、バリアフリーで設備が整い、交通の便のよい斎場が好まれる傾向にあります。
世話役を依頼するかどうか
一般葬、特に参列者数が100〜200人を超えるような大型葬になると、遺族や葬儀社スタッフだけでは手が回らないことがあります。そのような場合は受付や会計、台所や案内を担当する人を身内や友人、勤務先の人などにお願いします。
中心となる人を世話役代表として依頼し、その人から他の手伝いの人を頼んでもらうのがよいでしょう。世話役代表は喪家と交流が深く信頼できる親族、故人や喪主の職場の人などが適任です。
弔辞の人選をする
一般葬では、式次第に弔辞の拝受があります。仏式は読経のあと、神式では祭詞奏上のあと、キリスト教では神父や牧師のことばのあとに弔辞を読んでいただきます。
故人と親交の深かった職場の上司や同僚、友人など2名から3名に依頼します。依頼は葬儀の直前にならないよう、日程が決まり次第お願いしましょう。
臓器提供、献体について
故人が生前、臓器提供意思カードの所持や、大学に献体の登録をしていることがあります。臓器提供も献体も、遺族の同意が必要です。
臓器提供は人の生命を救い、献体は医学の発展に貢献する、たいへん尊い行為です。しかし、遺族の心情としてご遺体に傷がつくことに抵抗を覚えるのは自然なことです。故人の遺志を尊重するか、拒否するかを相談して決めなくてはいけません。
葬儀社の決定
代々決まった葬儀社がある、または故人が葬儀の生前予約・契約をしていた場合は、その葬儀社に連絡をします。ご遺体の搬送から火葬まで、一社に担当してもらうようになります。
葬儀社が決まっていない場合は、病院からご遺体の搬送を頼んだ葬儀社にそのまま依頼するか、親族や経験者からの紹介、インターネット検索などで葬儀社を決めます。
遺影の選定
祭壇に飾る遺影を選びましょう。最近では、生前に遺影写真を撮っておく人も増えています。故人の希望があれば尊重します。突然のことで写真の用意がない場合、現在の技術では集合写真からでも遺影が作れます。
死亡広告を出すかどうかを決める
故人の関係者が公私ともに多いと思われるときには、新聞に死亡広告を出して通夜、葬儀・告別式の告知をするか検討します。
香典、供花、供物を受け取るか辞退するかを決める
故人の遺志で辞退する場合や、遺族の考えで辞退するケースもあります。香典、供花、供物を辞退することで、お返しの負担を軽くすることができます。辞退すると決めたら、葬儀の案内をする際に口頭、書面、死亡広告で知らせます。
※葬儀の生前予約・契約とは
本人が存命中に、希望する葬儀のスタイルや予算に基づき、葬儀社を決めて予約をしておくことです。予約だけではなく費用の支払いまで行う生前契約もあります。家族に伝え、予約控えや契約書はエンディングノートに添付するなどして、死亡後に実行されるようにしておく必要があります。
話し合いが難航するケース
家族とはいえ、意見が合わないことがあるのは当然です。しかし、葬儀は目前ですので言い争っている時間はありません。
話し合いが進まない主な原因として、①遺族同士の意見が合わない、②故人の遺志と遺族の希望が合わない、が考えられます。
費用の負担について
葬儀費用にまつわるトラブルが、しばしば起こります。親の葬儀では喪主が全額負担すべきか、兄弟姉妹で平等に負担すべきか、などです。兄弟姉妹全員で負担する場合は、その負担割合で意見が分かれることもあります。
故人がじゅうぶんな預貯金や死亡保険金を残していれば問題はありませんが、そうでない場合に金銭負担をめぐり揉めることがあります。
故人の遺産が少ない場合は、葬儀規模を小さくすることで負担を軽くすることが可能です。宗教者への御礼、特に仏式での御布施は高額になる場合もあるため、無宗教葬も視野に入れます。
葬儀費用がすぐに用意できないときは、葬儀社に相談してみましょう。支払い期限の延長や、分割払いに応じてもらえることがあります。
葬儀形式や規模で揉める
家族だけでひっそり見送りたい人がいる一方で、盛大な葬儀をあげたい考えの人もいて揉めることがあります。予算が許せば、家族葬のあとに日を改めて、お別れの会や偲ぶ会を開く方法もあります。
家族葬に呼ぶ範囲、親族の序列が決まらない
家族葬は、近年増えてきた葬儀形式です。会葬者の対応に追われることなく、故人とのお別れの時間がじゅうぶんとれるのがメリットのひとつです。
家族葬という名称ですが、家族だけではなく親族や親しい友人にも参列していただく形式です。遺族側から参列してほしい人を限定するかたちになるため、どの範囲まで声掛けをするかが難しいところです。そこで、誰を呼ぶかで意見が割れることがあります。
また、焼香の順番は喪主から始め、故人に近い順とされますが、親族の順番が決まらない、さらには精進落としの席次がなかなか決まらない、などの問題がよく聞かれます。
序列を重んじる人もいますので、地域の慣習や前例、年長者の意見に従うのが無難かと思われます。
故人の遺志と遺族の希望が合わない
故人は小規模な葬儀を希望、遺族は大型葬を希望などのケースがあります。故人が「家族葬で執り行ってほしい」と言い残したとしても、社会的立場や交友範囲によっては、家族葬のあとで弔問客が途絶えなかったり香典や供花、供物が送られてきたりして、遺族が長期間対応に追われることもあります。
葬儀は故人の遺志を尊重してコンパクトにあげ、後日、お別れの会や偲ぶ会を催すことも検討します。
故人が臓器提供や献体を望んでいた場合、時間制限があるため迷っている時間はありません。臓器移植は死亡後速やかに対応、献体は48時間以内にご遺体を引き渡すことになります。喪主を中心に、早急に意見をまとめましょう。
故人の信仰が家代々の宗教と違う場合
故人と遺族とで宗旨宗派が違う場合、故人に合わせるのが一般的です。たとえば故人が洗礼を受けていた場合、遺族が仏教徒であっても、キリスト教式で葬儀をあげることになります。
宗教者との打ち合わせ
仏式葬儀
菩提寺がある場合
菩提寺があり、院内墓地に納骨するには戒名が必要です。通夜の前には戒名を授かり、白木位牌に書いてもらいます。
御礼は、僧侶の読経料と戒名料を合わせて「御布施」として渡しますが、価格表のようなものはありません。金額がわからなければ、寺院に率直に聞いても差し支えありません。
菩提寺がない場合
菩提寺はないが仏式で葬儀をあげたい、という場合は、葬儀社に紹介してもらうことが可能です。その際、御布施の額は葬儀社に聞くのがよいでしょう。
葬儀会場について相談
寺院での葬儀を希望する場合は、空き状況を菩提寺に確認します。斎場や他の施設、自宅で行うのなら僧侶の都合とともに、移動手段も聞いておきます。
僧侶が自身で自家用車やタクシーで移動する際には、御車代の用意が必要です。喪家側で送迎する場合は必要ありません。
通夜ぶるまい、精進落としの出席の有無をたずねる
通夜ぶるまい、精進落としに列席いただけるかを確認します。辞退なさる場合は、御膳料の用意をしておきます。
故人が無宗教葬を希望していた場合
代々の墓が寺院内だと、納骨には戒名が必要と言われることがほとんどです。故人が無宗教葬を希望していた旨を伝え、住職とよく相談します。菩提寺に無断で無宗教葬を行うのは、関係が悪化しますので避けなくてはいけません。
神式葬儀
通夜祭(仏式の通夜)葬場祭(仏式の葬儀)の会場
神道では死をけがれとするため、神式の葬儀は神社では行いません。斎場か自宅に斎主(葬儀をつかさどる神官)に来てもらいます。その際の移動手段を聞いておき、仏式と同様、必要に応じ御車代を用意します。
祭詞の内容を神官に伝える
神式葬儀には祭詞奏上といい、斎主が祭詞(故人の略歴、業績、人柄など)を奏上します。その内容をあらかじめ伝えておきます。
直会の出席の有無をたずねる
仏式葬儀の精進落としにあたるものが、神式では直会(なおらい)です。斎主や他の神官に列席してもらえるかを確認します。辞退なさる場合は御膳料を用意します。
キリスト教式葬儀
葬儀会場
故人がキリスト教徒だった場合、葬儀は所属教会で行うのが一般的です。祭壇のかざりつけなどは、教会に従います。
葬儀社について
日本ではキリスト教式葬儀の割合がたいへん少なく、取り扱う葬儀社も限られます。また、カトリックかプロテスタントかにより、葬儀の進行や祭壇のしつらえも違います。
そのため、葬儀社は教会から紹介してもらうのが一番よい方法です。神父または牧師、葬儀社、喪主の三者で打ち合わせを行うのがよいでしょう。
式次第などを決める
式次第、歌う聖歌(カトリック)、讃美歌(プロテスタント)、献花の花の種類を決めます。オルガン奏者も、教会を通して依頼します。
信者以外の人にとって、キリスト教式葬儀はなじみがないのが普通です。そのため、式次第や祈りのことば、聖歌や讃美歌の歌詞のプリントを用意しましょう。葬儀社に手配を頼みます。
仏式の「通夜ぶるまい」にあたる場を設けるかどうか
キリスト教では本来、通夜や葬儀後の宴席は設けません。ただし日本の慣習にならい、通夜のあとで遺族側が軽食や茶菓をふるまって、故人を偲ぶ時間を設けることが多くなっています。詳細を神父または牧師と相談します。
葬儀社との打ち合わせ
打ち合わせ内容
通夜、葬儀・告別式、火葬の日程
まずは火葬場の空き状況を確認してもらいます。特に都市部では火葬場が混雑しているため、最初に火葬の日程を決めます。参列者が遠方の場合、葬儀まで少し日をあける場合もあります。
予算を伝え、葬儀プランの内容を決める
ほとんどの葬儀社で、数種の葬儀プランを用意しています。セット料金に含まれるもの、オプションとして必要に応じて注文するものを決めます。
葬儀会場
葬儀形式や会葬者数により、会場の大きさが決まります。遺族が希望する会場のタイプと会葬者の予測人数を葬儀社に伝え、予算内に収まる会場を提案してもらいます。
返礼品、会葬礼状(品名、文面、数量)
香典の有無にかかわらず、会葬者に通夜または葬儀・告別式で渡す返礼品と、会葬礼状の文面を決めます。
返礼品は、お茶やのりなどの消耗品が昔から使われています。最近では、荷物にならないプリペイドカードを選ぶ家も増えてきました。
返礼品には、会葬礼状を添えます。文面は葬儀社に定型文が用意してあります。オリジナルの文面を使ってもかまいません。ただし、その場合はなるべく早く原稿を渡し、印刷を依頼します。
返礼品と会葬礼状で1セットです。多めに注文し、残った場合は返品できるかどうかを確認します。葬儀後も自宅に弔問に訪れる人がいますので、返礼品はすぐに精算せず、自宅にもある程度の数を置いておくのがよいでしょう。
通夜ぶるまい、精進落とし
通常、通夜のあとの通夜ぶるまいと、葬儀・告別式のあとの精進落としで弔問客をもてなします。料理は葬儀社に手配を依頼するのが一般的です。特に利用したい仕出し屋があれば、葬儀社の担当者に伝えておきます。
見積もりをもらう
見積もりをもらい、予算内に収まっているかを確認します。総額だけではなく、各項目や単価まで詳細な見積もりを出してもらいます。複数の葬儀社に、同じ条件で見積もりを依頼して比較することも可能です。
まとめ
葬儀は、かねてから多くの手順を踏み執り行われてきました。近年は、少子高齢化や核家族化により、葬儀に多くの費用や時間、労力を使わない傾向にあります。
どのような葬儀形式を選ぶにせよ、逝去から火葬、納骨までの一連の流れにおいて多くの決めごとがあり、打ち合わせが必要です。
初めて喪主になった場合は知識もなく、戸惑うことも多いはずです。葬儀はその土地の慣習に従う部分も大きいため、わからないことは葬儀社のスタッフや経験豊かな年長者に聞くことをお勧めします。
この記事では、家族、親族間での話し合い、宗教者との打ち合わせ、葬儀社との打ち合わせとにわけて、解説しました。事前に内容を知っておくことで、スムーズな打ち合わせができるでしょう。