大葬儀を規模別にみると4タイプ
現在よく行われている葬儀の形式は、大きくわけると「一般葬」「家族葬」「一日葬」「直葬(火葬式)」の4つで、順に葬儀の規模別ともいえます。
- 一般葬:通夜、葬儀・告別式、火葬の流れで行う、従来の形式。通常「お葬式」といえば、一般葬のことをいいます。通夜と葬儀・告別式を2日にかけて行います。
- 家族葬:一般葬の規模を小さくし、家族や故人とごく親しかった人たち少人数で執り行う葬儀です。一般葬同様、通夜、葬儀・告別式を2日で行います。
- 一日葬:通夜を行わず、葬儀・告別式、火葬を一日で済ませる葬儀で、故人も遺族も高齢の場合、選ばれることが多い形式です。
- 直葬(火葬式):通夜、葬儀・告別式を行わず、火葬のみを行う葬儀です。故人が高齢で参列者がほとんどいない場合、選ばれることが多くなっています。
葬儀規模は縮小傾向にある
「一般葬」は昔から多く営まれてきた葬儀ですが、近年は葬儀形式の多様化がみられます。少子高齢化で親戚が少なくなった、若い世代の宗教離れ、景気の低迷で葬儀代の捻出が難しい、などの理由があげられます。加えて、2020年以降はコロナ禍により、葬儀規模の縮小化が顕著でした。
大型葬とはどのような葬儀か
一般葬は故人に関わりのある人たちに広く通知し、参列してもらう葬儀です。よって、故人の生前の立場や交友関係により、多くの会葬者が訪れることもあります。
そのような大規模な葬儀を一般葬のなかでも特に「大型葬」とよんでいます。大型葬に明確な定義はありませんが、会葬者が200人を超えると大型葬の扱いになります。
多くの会葬者が見込まれる場合、
- 一般葬として通夜、葬儀・告別式、火葬を一連の流れで行う方法
- 密葬や家族葬を行い、後日「お別れの会」を開催する方法
このいずれかで執り行われます。
この記事では、①の大規模な一般葬である大型葬について解説します。また、葬儀は故人の宗旨宗派により、仏式、神式、キリスト教式、無宗教式のなかから選ばれます。今回は日本の葬儀の約9割を占める、仏式をもとに解説することにします。
大型葬になるのはどのようなときか
大型葬になるのは、故人の仕事、社会的地位、趣味、その他の活動による交友範囲が非常に広い場合です。故人が生前より「家族葬で質素に」と望んでいたとしても、社会的地位が高い人は会葬者が多くなると考えられます。
また、故人ではなく喪主や遺族の社会的地位や交友範囲が広い場合も、会葬者が多くなる傾向にあります。
大型葬と社葬の違いはなにか
社葬とは
「社葬」という、会社が主体となって執り行う葬儀があります。社葬では会社が葬儀費用を負担する「施主」となり、喪主は遺族がつとめます。
社葬は会社に対して功績のあった人が亡くなった際に、会社をあげて執り行います。具体的には故人が会社の創業者、会長、社長、副社長、役員の場合です。その他、会社に大きな貢献をした社員、社命による業務中に亡くなった社員が対象となります。
社葬と個人葬の違い
通常、葬儀には「喪主」がいて、葬儀費用を負担する「施主」とよばれる人もいます。一般的な個人葬では喪主が金銭負担をすることが多いため、喪主と施主を兼任するケースがほとんどです。
社葬の大きな特徴が、会社が施主となり喪主は遺族がつとめるということです。社葬はその性質から参列者が多く、大規模な葬儀になる傾向にありますので、社葬も大型葬の一種といえます。
大型葬の費用相場について
固定費と変動費
大型葬では葬儀費用も高額になります。費用は一定額かかる費用である「固定費」と、参列者数により増減する「変動費」とにわけて考えます。
固定費と変動費に僧侶への御礼を加えた額が、葬儀費用の総額です。なお、葬儀費用の大部分が相続税の控除対象となります。領収書、明細書を大切に保管しましょう。
固定費の例
ほとんどの葬儀社が「〇〇プラン」として、葬儀に最低限必要なものをセットにした料金プランを提供しています。会場設営などにかかる費用は、会葬者の人数に関わらず一定です。これらを固定費としておきます。
セット内容の例
- 式場使用料
- 会場祭壇
- 遺影写真
- ドライアイス
- 枕飾り一式
- 死装束(仏衣、装具)一式
- 棺
- 白木位牌
- 焼香具
- 香典帳
- 受付設備
- 式場内外看板一式
- 納骨具一式
- 司会進行スタッフ
- 儀式運営スタッフ
その他
- 火葬場使用料
- 搬送費(遺体を安置場所へ)
- 霊柩車代(斎場から火葬場へ)
変動費の例
- 返礼品
- 会葬礼状
- 香典返し
- 通夜ぶるまいの飲食代
- 精進落としの飲食代
- 送迎車(会場と火葬場など)の台数分費用
- 謝礼(世話役へ)
- 心づけ(霊柩車やハイヤーの運転手へ)
僧侶への御礼
葬儀社への支払いを固定費と変動費に分けて考えました。さらに僧侶への御礼である「御布施」が必要です。
御布施には、通夜と葬儀での読経料に、戒名の料金が含まれます。戒名には位があり、位が高いほど高額です。戒名料は10万~100万円と大きな幅があります。
故人が大型葬を執り行うような人であれば、社会的地位も寺院への貢献度も高いと思われ、故人の功績にふさわしい戒名を授かることになるでしょう。
戒名は「院号」「道号」「戒名」「位号」で構成されます。「院号」は生前、社会に大きな貢献をした人や生前の信仰が深かった人に与えられます。
以下は戒名料の目安ですが、宗派や菩提寺により異なります。戒名料がわからないときは、菩提寺に直接たずねても失礼にはあたりません。
戒名料の目安
- 信士・信女:30万円~
- 居士・大姉:50万円~
- 院信仕・院信女:70万円~
- 院居士・院居女:100万円~
その他僧侶に渡す金額
- 御車代:僧侶に斎場に来てもらう場合、葬儀会場までの距離を考え5,000~10,000円を御車代の表書きで渡します。遺族側が送迎した場合は不要です。
- 御膳料:僧侶が通夜ぶるまいや精進落としを辞退した場合、5,000~10,000円の御膳料を渡します。僧侶が複数人の場合は人数分をひとつの袋に入れ、御膳料の表書きで渡します。
参列者500人を想定した費用例
大型葬は数百人の会葬者を見込むため、費用は高額になります。ただ、香典収入も多くなるので、充当することで負担は軽減されるでしょう。ここで500人を想定した費用例をあげることにします。
参列者が500人、通夜ぶるまいと精進落としへの出席数がそれぞれ100人とし、返礼品は返品ができますので、50個余分に手配した例です。僧侶への御布施は、最高位の戒名を授与されたと想定して計算しています。
【東京都内A葬儀社】(金額はすべて税込)
- 大型葬プラン 1,100,000円
- 通夜ぶるまい飲食代 3,300円×100人=330,000円
- 精進落とし飲食代 3,300円×100人=330,000円
- 返礼品 3,300円×550個=1,815,000円
- 会葬礼状 110円×550枚=60,500円
小計 3,635,500円
【僧侶への御礼】
- 御布施 1,000,000円
- 御車代 10,000円
- 御膳料 10,000円×2人=20,000円
小計 1,030,000円
【謝礼、心づけ】
- 世話役代表 20,000円
- 世話役 5,000円×10人=50,000円
- 霊柩車の運転手 5,000円
- マイクロバス、ハイヤーの運転手 5,000円×2=10,000円
- 火葬場の係員 5,000円(公営の火葬場では渡さないことが多い)
小計 90,000円
【予備費】
- 200,000円
合計 4,955,500円
※備考:予測香典収入 平均5,000円×500人=2,500,000円
大型葬を行う手順
遺族側が行うこと
葬儀の規模にかかわらず必要なことと、大型葬になった場合には必要となることがあります。大型葬では「会葬者の予測」「世話役の依頼」「死亡通知」「死亡広告」が特に必要です。
- 菩提寺に連絡
- 喪主の決定
- 葬儀社、葬儀会場の選定
- 通夜、葬儀・告別式、火葬の日程決め
- 会葬者の予測
- 予算決定
- 世話役を依頼
- 弔辞を依頼(直前に頼まないこと)
- 死亡連絡(電話、FAX、メール、死亡通知状の発送)
- 死亡広告(故人の交友範囲により全国紙か地方紙、または両方)
大型葬には協力者が必要
大規模な葬儀は雑務が非常に多いため、遺族だけでは手が回りません。そのため、葬儀が円滑に進むようにサポートしてくれる人を依頼します。手伝ってくれる人たちを「世話役」といいます。
世話役を代表し統括してくれる人を「世話役代表」とします。世話役代表は喪家に近しい親族や友人・知人、在職中なら職場の人などにお願いします。社会経験豊富で、弔事にくわしい人が望ましいでしょう。
葬儀内容や地域の慣習により違いはありますが、主な世話役は以下のとおりです。世話役代表は喪主が依頼し、その他の世話役は世話役代表から依頼してもらうとよいでしょう。
- 世話役代表
- 会計係
- 受付係
- 接待・台所係
- 会場案内係
葬儀社選びのポイント
200人から500人の大型葬となると、収容できる斎場も限られます。また葬儀社により得意分野がありますので、大型葬の実績がある葬儀社を選びましょう。
決まった葬儀社がない場合は、経験者から評判を聞いたり、インターネットの口コミをチェックしてみます。過去に利用して好印象だった葬儀社も候補に入れます。
故人が、葬儀の生前契約をしていることもあります。直接聞いていない場合は、エンディングノートや書き残したものがないかを、念のため確認しましょう。
葬儀社は、全日本葬祭業協同組合連合会 (全葬連)に加盟していると安心です。また、1級葬祭ディレクターが在籍すると、きめ細やかなサービスが期待できます。葬祭ディレクターには1級と2級とがあり、1級保持者は大小の個人葬から社葬までプランニングできる、幅広い知識がありますので大型葬でも対応可能です。
大型葬の会場選び
大型葬では、遠方からの会葬者も多いことを考慮し、宿泊施設や駐車場などの施設が充実していて、最寄り駅からアクセス良好な会場が望ましいでしょう。
参列者数を予測する方法
遺族が、故人の交友範囲をすべて把握していることは稀です。参列者数を予測するには、故人の関係者をグループ分けします。親族、仕事関係、友人・知人、サークルなどの所属団体に分け、代表となる人に連絡します。その代表者から他の関係者に連絡してもらいましょう。
故人の交友関係を知る方法でよく使われるのが、年賀状、携帯電話の連絡先、SNSのつながりです。特にFacebookは実名登録が原則ですので、故人が利用していれば交友関係を知る一助になります。
世話役を頼まれたら
世話役代表は喪主のサポート役として、葬儀社や菩提寺との打ち合わせにも立ち会います。世話役は様々な雑事を手伝う人です。
世話役たちは、葬儀においては遺族側の立場となります。喪服を着用し、立ち居振る舞いや言葉遣いに注意しましょう。接待や台所の係を頼まれた女性は、黒か白の無地のエプロンを着用します。大型葬では多額の香典が集まるため、受付や会計の担当者は盗難に警戒が必要です。
大型葬に参列する心がまえ
通常の葬儀と服装、持ち物は同じ
大型葬でも、服装は一般的な葬儀と同じです。通夜には略礼装、葬儀には準礼装が基本といわれていますが、実際には通夜、葬儀・告別式とも準礼装を着用するのが普通です。
略礼装とは男性がダークスーツ、女性はダークカラーのスーツです。一般的に「喪服」とよばれるのは準礼装のことで、男性はブラックスーツ、女性はブラックフォーマルです。
香典の注意点
香典の額や香典袋も葬儀の規模にかかわらず、通常の通夜、葬儀と同じです。金額は故人との関係によりますし、地域差があります。
親族の場合は祖父母が5,000円から実親、義理の親で10万円と幅が大きく、親族以外では、仕事関係、友人・知人、近隣が5,000円となっています。この金額は一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)のアンケート結果から引用しました。
引用元:全日本冠婚葬祭互助協会 香典に関するアンケート調査(令和3年度)
https://www.zengokyo.or.jp/activity/report/search/funeral-gift/
金額や香典袋についてのマナーは、従来の葬儀と変わりません。ただ、大型葬では故人の交友範囲が非常に広く、新聞の死亡広告で訃報を知った人も多いと考えられます。
そのため都合により通夜にも葬儀にも参列できない人から、香典を預かってくることもあるでしょう。夫の代理で妻が参列することもあります。他の人の香典を渡すときは、次のように記帳します。
受付で「〇〇が本日参列できませんので、預かってまいりました」と言い、依頼者の住所・氏名を記帳し、下に(代理)または(代)と書き入れます。依頼者が夫の場合は、本人の住所・氏名の下に(内)と記入します。
大型葬では、連名で香典を出すこともよくあります。また、仕事の関係者として参列することがあります。その際の表書きは次のようにします。
- 連名(3名まで):目上の人、上司など立場が上の人を右にして順に氏名を書き、目上、目下がない場合は右から五十音順に書きます。夫婦での連名は中央に夫の氏名を書き、妻の下の名前だけを夫の名前の位置に並べて書きます。
- 連名(4名以上):代表者の氏名を中央にし、その左に「外一同」や「〇〇社△△部一同」と書き、全員の氏名を書いた別紙を香典袋の中袋に同封します。
- 社名を入れるとき:中央に氏名を書き、右側にやや小さく社名や肩書を入れます。氏名だけでは故人との関係を遺族が判断できないと思われるときは、社名を加えるとよいでしょう。
マナーの注意点
大規模な葬儀や社葬では、大勢の人が集まるため、ときにマナーに反する言動がみられます。私語、名刺交換、商談はすべてマナー違反です。かつての上司や部下、同僚、取引先に葬儀で会うと起こりがちですので、7くれぐれも注意しましょう。
まとめ
葬儀規模の縮小化、簡略化が見られる昨今ですが、故人の生前の社会的立場や交友関係を考慮し、大型葬となる場合があります。
大規模な葬儀には相応の会場が必要ですし、大型葬に慣れた葬儀社の選定が必須となります。また、葬儀社のスタッフ以外にも多くの人手が必要になるため、喪家側からも協力してくれる人を依頼しなくてはいけません。
喪主、世話役代表、菩提寺、葬儀社とで綿密な打ち合わせを行い、悔いのない葬儀を執り行いたいものです。