宗教・宗派

浄土真宗の葬儀の特徴とは?費用の相場や流れ、マナーなどを解説

日本では人が亡くなるとよく仏教式の葬儀が執り行われます。

仏教には様々な宗派があり、その思想にも違いがあることから、宗派ごとで葬儀時の独特な表現やマナーがあります。

今回は国内でも信者数の多い浄土真宗の葬儀の特徴や費用について紹介していきます。

浄土真宗とは、親鸞聖人を宗祖とする仏教の宗派のひとつです。文化庁によると、信者数は仏教系全体の20%近くを占めており、日本八宗で見ると信者数の割合は半数近くにのぼります。

浄土真宗の教えは、「南無阿弥陀仏」の念仏を称えなくとも阿弥陀如来を信じる者は善人悪人にかかわらず必ず極楽浄土に往生できるというものです。

また、浄土真宗では死後の世界という概念がなく、亡くなった瞬間に仏になります。

似た名前の「浄土宗」という仏教の宗派もありますが、浄土宗は法然上人を宗祖とする宗派です。法然上人は親鸞聖人の師でもあります。

浄土宗の教えは「念仏を称えることで誰もが往生できる」というものであり、浄土真宗は浄土宗の教えを発展させたものになります。

浄土真宗の葬儀の特徴、形式

一般的な仏教の葬儀は、僧侶が故人に教えを説くことで極楽浄土(天国)へ行けるように導くための儀式です。

しかし浄土真宗では亡くなった瞬間に仏になるという考えのため、葬儀は故人が天国へ行く手助け(供養)をする儀式ではありません。

そのため他の宗派には無い3つの特徴があります。

  1. 葬儀では死者の成仏を祈らない
  2. 浄土真宗の葬儀に「無い」ものがある
  3. 友引を避けなくても良い

葬儀では死者の成仏を祈らない

浄土真宗の教えは、亡くなるとすぐに仏になる=成仏するという考えのため、葬儀では死者の成仏を祈ることはしません。
浄土真宗の葬儀は、死者の供養の場ではなく、仏の教えを学ぶための聴聞の場と考えます。

浄土真宗の葬儀に「無い」ものがある

死者を供養する場ではないことから、浄土真宗の葬儀では一般的な葬儀にある以下の儀式がありません。

「末期の水」の儀式

「末期(まつご)の水」とは、臨終の宣告直後に故人の口に水を含ませる儀式です。
お釈迦様が臨終の間際に水を飲んだという故事にちなんだ儀式という説があります。

浄土真宗以外の宗派では古くから浸透している風習です。

引導や授戒

浄土真宗では仏が極楽浄土へ導いてくれるという考えから、人が故人を導く必要がないため、「引導」という儀式は行われません。
また、戒名を授かる「授戒」の儀式もありません。
浄土真宗では「法名(ほうみょう)」と呼ばれる、出家しない仏教徒用の名が授けられます。
法名には、阿弥陀如来の弟子を意味する「釋(釈)」という名がつけられます。
「釋〇〇」と3文字でつけていただくことが一般的です。

死装束・お清めの塩

亡くなるとすぐ極楽浄土に行くという考えから、故人を極楽浄土へ導くための死装束もありません。
白い衣装(経帷子・きょうかたびら)を着ても問題ありませんが、右前で着せます。
衣装の色についても特段決まりはありません。

お清めの塩も不要になります。死は往生の意味合いを指すため、穢れという概念もないためです。

友引を避けなくても良い

一般的に六曜の「友引」の日に葬儀を行うと、友人があの世へ連れて行かれるといわれていることから、ほとんどの仏教宗派では友引に葬儀を避ける傾向にあります。浄土真宗ではこのような迷信を拠り所としないため、友引に葬儀を行っても問題ありません。

ただ、実際には多くの火葬場が友引を休みとしているため、告別式は友引の日に行えないこともあります。

葬儀に関する各費用の相場

浄土真宗の葬儀に関する費用の相場は、喪主・参列者それぞれ以下のようになっています。

葬儀費用(喪主・施主)

葬儀社によると、浄土真宗の葬儀にかかる費用は合計50万〜150万円ほどになるといわれています。
住んでいる地域や規模によって金額は異なりますが、他の宗派の葬儀費用と大きな差はありません。

一般的な費用の目安は以下のようになっています。

  • 一般葬 150万~200万円程度
  • 家族葬 50万~100万円程度
  • 一日葬 50万~100万円程度
  • 直葬 30万~50万円程度

 

また、お布施については宗派により相場が異なります。

宗派 相場
浄土真宗 10万〜30万円
浄土宗 30万〜50万円
日蓮宗 30万円程度
真言宗 30万円以上
曹洞宗 30万〜60万円

お布施は阿弥陀如来または僧侶に感謝を伝えるもので、金額はお気持ちとしているところが多いですが、相場を見る限り他の宗派より低いと言えます。

香典(参列者)

香典の相場も葬儀費用と同様に、他の仏教の宗派と変わりありません。
一般的な相場は、一人当たり1万円が目安となります。

故人と血縁関係にある場合や、年齢、独立しているかによって金額が変動します。
友人や知人の葬儀だと5千〜1万円、職場などであれば3千〜1万円が目安です。
浄土真宗の香典袋の表書きには特別な表現があります。

そちらについてもこの記事内で後述します。

浄土真宗の通夜・葬儀の流れ

浄土真宗は、他の仏教宗派と考え方が異なることから、葬儀の流れも異なっています。

また浄土真宗には「本願寺派」と「真宗大谷派」の2つの大きな宗派があり、同じ浄土真宗でも葬儀の流れやマナーに違いがあります。

本願寺派は龍谷山本願寺を総本山とする宗派で、別名・西本願寺と呼ばれます。
真宗大谷派は真宗本廟総本山とする宗派で、こちらは東本願寺という呼び方になります。

どちらも京都に本山があり、地元ではお西さん・お東さんと言われたりもします。

通夜・葬儀の流れはそれぞれ以下のようになっています。
地域によっては異なる流れをとっている場合もあるため、事前に葬儀場や菩提寺に確認しておくと良いでしょう。

本願寺派の場合

通夜

  1. 遺族・参列者の入場
    通夜は故人と縁のある人たちで行います。
  2. 僧侶入場
  3. 勤行(お勤め)
    阿弥陀経を読経します。遺体ではなく本尊に向かって勤行(ごんぎょう)を行います。
  4. 帰敬式
    生前に法名をいただいていない場合は、ここで法名を僧侶からいただきます。
  5. 僧侶による法話
    僧侶によって浄土真宗の教えを説く「法話(ほうわ)」が行われます。
    通夜は故人の友人や職場の人が参列するため、参列者の宗派が異なることもあります。そのため法話は短時間になる傾向にあります。
  6. 僧侶退場

葬儀

  1. 帰三宝偈(きさんほうげ)
    称えることで、仏・法・僧(三宝)に帰依し往生することを表します。
  2. 路念仏(じねんぶつ)
    通夜と葬儀が別の場所で行われる場合、移動の際に念仏が称えられます。
  3. 三奉請(さんぶしょう)
    僧侶が三奉請と呼ばれる経文を、葬儀の最初に称えます。
  4. 僧侶による焼香・表白(ひょうびゃく)
    僧侶が焼香を行い、法要の趣旨と御仏の徳について述べます。
    表白は、ひょうひゃく・ひょうはくとも呼ばれます。
  5. 正信偈(しょうしんげ)
    全員で正信偈を読経します。
  6. 参列者の焼香
    喪主・参列者が順に焼香を行います。
  7. 和讃(わさん)
    全員で御仏の教えや徳を賛美する、五七調の歌を歌います。
  8. 回向(えこう)
    葬儀の最後に、御仏の功徳をすべての人に回りめぐらすための念仏を称えます。

真宗大谷派の場合

通夜

本願寺派と同じ手順で通夜を執り行います。

葬儀

真宗大谷派では、2部構成で葬儀が行われます。

(本願寺派と同じ項目の説明は省略しています。)

【第一葬儀】

  1. 三匝鈴(さそうれい)
    僧侶が小さい鈴から順に鳴らしていきます。さんそうりんとも呼びます。
  2. 路念仏
  3. 僧侶による焼香・表白
  4. 三匝鈴
  5. 路念仏
  6. 弔辞
    参列者が弔辞を読みます。
  7. 正信偈
  8. 和讃
  9. 回向
  10. 総礼(そうらい)
    参列者全員で合掌して念仏を称えます。

【第二葬儀】

  1. 総礼
  2. 伽陀(かだ)
  3. 勧衆偈(かんしゅうげ)
    本願寺派における帰三宝偈のことです。
  4. 短念仏十遍(たんねんぶつじゅっぺん)
    念仏を10回称えます。
  5. 回向
  6. 総礼
  7. 三匝鈴
  8. 路念仏
  9. 三匝鈴
  10. 導師焼香・表白
  11. 三匝鈴
  12. 正信偈
  13. 短念仏十遍
  14. 和讃
  15. 回向
  16. 総礼

葬儀後の法要

葬儀後の初七日法要などは、他の仏教宗派の葬儀と同様に執り行います。

ただし、浄土真宗では供養という意味合いで法要を執り行うのではなく、僧侶が遺族に対する聞法を目的として行われます。

浄土真宗における葬儀のマナー

浄土真宗の葬儀時のマナーは、他の仏教宗派と異なる部分が多くあります。
葬儀に参列する際は事前に把握しておくと良いでしょう。

服装

一般的な喪服で問題ありません。

浄土真宗の門徒(檀家)の場合は「門徒式章(もんとしきしょう)」という布を身につけて参列する場合もあります。

その場合は、普段着と門徒式章のみでも正装とみなされます。

浄土真宗特有の表現

浄土真宗では教えの違いから他宗派と異なる表現をする言葉があります。

 

浄土真宗 他の仏教宗派
浄土 天国、黄泉の国、草葉の陰
お浄土に参る 天国に行く
往生 他界、永眠
御仏前・御尊前 御霊前・御霊
法名 戒名
念ずる 祈る
故人 魂・魂魄
お浄土よりお導きください 安らかにお眠りください

香典の表書きに関しては「御仏前」あるいは「御香典」と書きます。

「御霊前」と書かれた袋を用意しないよう注意しましょう。

また、読経の際に称える「南無阿弥陀仏」ですが、宗派で若干違いがあります。

本願寺派では「なもあみだぶつ」、真宗大谷派では「なむあみたぶつ」と読みます。

数珠(念珠)の種類と持ち方

浄土真宗では、数珠の種類や形に特別な決まりはありません。

数珠はまず左手(中指から小指の間)に掛け、同じように右手も数珠の中に通します。
この時、房は下にさがるように持ちます。
二連の数珠の場合は宗派によって持ち方が異なります。

本願寺派では一連だけ手を通します。

真宗大谷派では二連とも手を通します。房は上に来るように持ち、左側に垂らします。

焼香の作法

浄土真宗の焼香の作法は以下の通りです。

  1. 本尊に向かって一礼し、合掌
  2. 右手の親指・人差し指・中指の3本で香をつまむ
  3. (本願寺派)つまんだ香を香炉に一回落とす (真宗大谷派)つまんだ香を香炉に二回落とす

浄土真宗の葬儀では、香を押しいだくことはしません。

(※押しいだく…つまんだ香を額に近づけ、目の位置より高くかかげる行為のこと)

また、香を香炉に落とす際の作法が宗派で異なるため注意しましょう。

線香の作法

浄土真宗では線香は立てず、火元を左側に来るようにして寝かせます。

長くて線香立てに収まらない場合は二つ折りにして寝かせます。

まとめ

浄土真宗の葬儀の特徴は、他の仏教宗派との思想の違いによるところにあります。

故人は亡くなった瞬間から極楽浄土に往生できる、という教えを頭に入れておくことで、言葉遣いなどのNGマナーを避けることができます。

浄土真宗は信者数も多いことから、浄土真宗の葬儀に参列する機会も比較的多くなると言えます。

他の仏教宗派とのマナーの違いや宗派内の違いも理解しておくことで、安心して葬儀に参列し故人を偲ぶことができるでしょう。