忌み言葉とは、結婚式や葬儀などの冠婚葬祭で使用を控えるべき言葉を指し、主に不吉なことを連想させる言葉です。弔事ではご遺族やご親族、周囲の人たちへの配慮として、忌み言葉を使わないのが社会人のマナーとされています。
ふだんの生活で使っている言葉の中にも、弔問時のあいさつ、お悔やみの手紙やメール、弔電、弔辞を書くときにはタブーとされるものがあります。
日常生活での使用では問題のない言葉の一部が、弔事では「忌み言葉」になってしまうため、とまどう人が多いのです。
しかし、パターンを覚えてしまえば難しくはありません。この記事では、忌み言葉の具体例、宗旨宗派によっては使えない表現を解説します。
さらに忌み言葉とは別に、ご遺族にかけてはいけない言葉も、合わせてご紹介します。
最初に、忌み言葉を意識しなくてはいけない場面、次いで具体的な忌み言葉や言い換えの例、忌み言葉以外にご遺族にかけてはいけない言葉、の順で解説を進めます。
忌み言葉に気をつける場面とは?
お悔やみの気持ちは、口頭で伝えるときと文面で伝えるときとの、ふた通りがあります。
弔問で直接お悔やみの言葉をかける際は、ご遺族と長く話さず簡潔にとどめます。過度に忌み言葉に神経質になる必要はありません。しかし基本的な忌み言葉は、知っておくと安心です。
訃報をうけた際の、もっとも一般的なお悔やみの言葉は以下のとおりです。
- このたびはご愁傷さまでございます。
- 心よりお悔やみを申し上げます。(キリスト教を除きます)
遺族側から返される言葉は以下のようになります。
- お心遣いありがとうございます。
- ご丁寧にありがとうございます。
- 恐れ入ります。/ 傷み入ります。
- 生前はお世話になりました。
口頭で弔意を伝える場面
訃報をうけてかけつけ故人と対面
ご遺族からの直接の訃報電話では、故人と近い関係にある人が呼ばれます。ご遺体の安置場所に到着したら「ご連絡ありがとうございました。このたびはご愁傷さまでございます」と述べます。
すすめられてから「お別れをさせていただきます」とご遺族に声をかけ、ご遺体と対面します。ご遺族との会話では、忌み言葉や配慮に欠けた言葉に気をつけなくてはいけません。
通夜に参列
通夜に参列するときは、受付で「このたびはご愁傷様でございます」と言い香典を渡し、記帳します。受付係は、喪家が依頼した手伝いの人が担当していることがほとんどです。遺族側の立場として受付にいますので、ご遺族に対するようにあいさつをします。
通夜ぶるまいに参加
通夜ぶるまいでは、ご遺族のほうから話しかけられることもあります。自分からは質問などをせず、聞き役に徹します。
「そうでしたか。大変でしたね」などと相槌を打つ程度にしましょう。死因や死亡時の状況をたずねるのは、マナー違反です。
葬儀・告別式に参列
受付でのあいさつは通夜と同様「このたびはご愁傷様でございます」とします。葬儀の規模によりますが、ご遺族と直接話す時間はあまりありません。
参列者焼香の際に、遺族席に向かい黙礼、または「ご愁傷さまでございます」「お参りさせていただきます」などと声をかけます。
精進落としに参加
通夜ぶるまいと同様、自分から話題を持ちかけないことです。ご遺族が話したいことがあれば、聞き役に徹するのが思いやりです。
葬儀後に自宅に弔問に行く
都合がつかず葬儀に参列できなかったり、葬儀後に訃報を知ったりしてご自宅に弔問に行くときが、もっともご遺族と話す時間が長くなります。そのため、忌み言葉には厳重に注意する必要があります。
書面で弔意を伝える場面
弔電、弔辞、手紙、メールやLINEは口頭と違い、後々まで文面が残り、ご遺族や親族の目に触れる機会が多くなります。そのため、口頭よりもさらに忌み言葉に気をつけましょう。
弔電
通夜、葬儀・告別式に参列できないときに、喪主宛てに出すお悔やみ電報が弔電です。
忌み言葉を避けるには故人の宗教を確認したうえで、NTTや郵便局の文例集から選ぶとよいでしょう。弔電は個性的である必要はなく、定型文で送っても失礼にはあたりません。
弔辞
従来の葬儀形式である一般葬では、故人と縁の深かった人に弔辞を依頼することがあります。弔辞を依頼された人は1,200文字程度、約3分で読み終える長さで書き、葬儀で読み上げます。
読み終えた弔辞は持ち帰らず、遺影に向けて祭壇に供えます。葬儀で多くの人が聞いており、文面はご遺族の手元に残るため、じゅうぶんに忌み言葉に注意します。
お悔やみの手紙
遠方にいたり出張中などで葬儀に参列できなかったり、葬儀後に訃報を知ったりしたときに、手紙を添えて香典を郵送することがあります。その際も、忌み言葉を使わないように気をつけます。
メール、LINE
死亡連絡や通夜、葬儀・告別式の案内がメールやLINEで届くこともあります。喪家はたてこんでいるため、直接電話で返事はせず、メールやLINEで返信しましょう。
参列の有無を返信する際も、お悔やみの言葉を書き加えます。忌み言葉に気をつけましょう。
具体的な忌み言葉と言い換え表現の例
不幸が重なることを連想させる言葉(重ね言葉)
以下のような「重ね言葉」は、日常生活では頻繁に使われています。しかし弔事では、忌み言葉として避けるべき言葉となります。
いよいよ/いろいろ/たびたび/くれぐれも/ますます/まだまだ/わざわざ/かえすがえす/重ね重ね/皆々様/少々/時々/重々/次々 その他
以下は普段の会話でなら問題のない言葉が、弔事ではタブーとされる例です。
- (誤)まだまだこれからでしたのに残念でしたね。
- (正)これからでしたのに残念でしたね。
- (誤)ご家族の皆々様も、くれぐれもご自愛ください。
- (正)ご家族の皆様も、どうぞご自愛ください。
注意すべき言葉のなかで、もっとも多いのが「重ね言葉」です。弔事では同じことが繰り返されないようにとの理由で、言葉以外にも二重のものを避けます。
たとえば、二重封筒は使わない、喪服に二連のネックレスは身につけないなどは、弔事のマナーとして知られています。
忌み言葉 | 言い換え |
いよいよ | さらに |
いろいろな | 多くの |
たびたび | よく |
くれぐれも | じゅうぶんに |
重ね重ね | 加えて、さらに |
次々と | たくさん |
不幸が続くことを連想させる言葉
以下も、普段の生活で使用するのには問題がないものの、弔事では「忌み言葉」とされています。
重ねて/続いて/追って/再び
忌み言葉 | 言い換え |
重ねて | 深く |
続いて | その後 |
追って | 後ほど |
再び | あらためて |
生死の直接的な表現
生死にかかわる直接的な言葉は、婉曲な表現に言い換えます。
死亡/死去/死ぬ/急死/生存していたとき/生きていた頃
忌み言葉 | 言い換え |
死亡、死去、死ぬ | ご逝去、永眠、他界(仏教) |
急死 | 突然のこと |
生存していた、生きていた頃 | ご生前、お元気だった頃 |
死や苦をイメージする数字(忌み数)
不吉だとして避けられる数字や番号を「忌み数(いみかず)」または「忌み番」といいます。4は死に通じ、9は苦に通じるとして使用を控えます。
香典の額も4,000円や9,000円はふさわしくありません。複数人で香典を包む際は、注意が必要です。たとえば2,000円ずつを2人で、3,000円ずつを3人で出し合おうとするのなら、それぞれ1,000円を上乗せして5,000円、10,000円としましょう。
病院、マンション、ホテルなどで4号室、9号室を作らないことがあります。4と9は、忌み数として避けられているためです。キリスト教では13が忌み数とされています。
宗教により使える言葉と使えない言葉
故人の宗旨宗派により、使える言葉と使えない言葉とがあります。それぞれの宗教の死生観によるもので、その宗教の特徴を知ることで、なぜある宗教で使える言葉が、他の宗教では使えないのかが理解できるようになります。
下の表にいくつか例を挙げます。(〇=使える ×=使えない)
仏教 | 神道 | キリスト教 | |
冥福を祈る | 〇 | × | × |
お悔やみ | 〇 | 〇 | × |
天国 | × | × | 〇 |
眠る | × | 〇 | 〇 |
仏様 | 〇 | × | × |
神 | × | 〇 | 〇 |
御霊(みたま) | × | 〇 | × |
仏教では故人は眠らない
仏教(浄土真宗を除く)では、人は死後49日間は現世と冥土のあいだをさまよい、旅をしていると考えられています。故人は7日ごとに冥界の裁判官の裁判を受け、49日目に判決がおります。
四十九日法要は故人が仏様になる、つまり成仏する大切な節目です。仏教では、故人は冥土を旅していて眠りません。そのため故人に対し「安らかにお眠りください」はふさわしくありません。
浄土真宗では冥福を祈らない
文化庁調査によると、日本に13宗56派が存在するといわれる仏教の宗派のなかで、信者数がもっとも多いのが浄土真宗本願寺派で、次いで多いのが浄土真宗大谷派です。そのため、浄土真宗の葬儀に参列する機会は多いと思われます。
浄土真宗には他の宗派とは異なる特徴がありますので、覚えておきましょう。
浄土真宗では、人は死後すぐに浄土で仏様になり、冥土をさまようことはないと考えられています。そのため、冥土での幸福を祈る意味の「〇〇様(故人)のご冥福をお祈りします」というお悔やみの言葉は使いません。
同じ理由で「ご霊前」も使いません。死後すぐ仏様になった故人に送る供花や供物は「ご霊前に」ではなく「ご仏前にお供えください」になります。通夜、葬儀の香典袋も、浄土真宗では「御霊前」ではなく「御仏前」または「御香奠」を使います。
神道やキリスト教にも冥土という概念はありませんので、「ご冥福をお祈りします」は浄土真宗を除く仏教でのみ使う、と覚えておくとよいでしょう。
仏教は極楽浄土へ、キリスト教は天国へ、神道は守護神になる
死後の行先は宗教により違います。神道では人は死後、天国や極楽浄土などには行かず、守護神になって家を守ると考えられています。よって故人に対し「天国で会いましょう」という言葉は、キリスト教でのみ使うようにします。
注)仏教で広く知られている考えに「故人は成仏して極楽浄土で生まれ変わる」があります。特に年齢の高い層には「人は死んだらお浄土にかえる」という考えが浸透しています。仏式では「天国」は使わないのが無難です。
神式での弔意の伝え方の例
- 御霊(みたま)のご平安をお祈り申し上げます。
- 安らかに眠られますようお祈りいたします。
キリスト教では「お悔やみ」を言わない
キリスト教では「死」は神に召されることを意味し、亡くなることを「帰天」(カトリック)「召天」(プロテスタント)といいます。キリスト教の死生観の基本は「復活」です。
キリスト教では死は終りではなく、天国へ召される喜ばしいことと考えられています。遺された人たちは死を一時的な別離とし、いずれ天国で再会すると考えます。そのため、キリスト教ではご遺族に対し「お悔やみ申し上げます」という言葉は使いません。
キリスト教での弔意の伝え方の例
- 神に召された〇〇様が安らかに憩(いこ)われるようお祈りいたします。
- 寂しくなりますが、神の平安がありますように。
仏教でのみ使える言葉
日本の葬儀の9割は、仏式で執り行われているといわれています。そのため、仏教用語はある程度は浸透していると思われます。仏教用語は、神道やキリスト教では使うことができません。
よく使用される仏教用語だけでも、覚えておくと安心です。以下は、仏式葬儀や法要でのみ使える言葉です。
(「冥福を祈る」は浄土真宗を除く)
- 冥福を祈る
- 成仏する
- 供養する
- 往生する
- 他界する
- 合掌する
仏教では避けるべき言葉
以下は、仏式の忌み言葉にあたります。
- 浮かばれない
- 迷う
忌み言葉のほかに弔問者が口にしてはいけない言葉
忌み言葉以外にも、弔事にふさわしくない言葉があります。以下に示した例はご遺族の気持ちを傷つけかねませんので、口にしないように注意しましょう。
高齢の人が亡くなったときの「大往生」
超高齢社会となった日本では、90歳代、100歳代まで大きな病気もせず、老衰など自然死で亡くなる人も珍しくありません。その際、弔問者が「大往生でしたね」とご遺族に言うのはたいへん失礼にあたります。以下の言葉に置き換えてください。
- ご長寿とはいえ、たいへん残念です。
- もっと長生きしていただきたかったです。
「大往生」とは、遺族側が故人を表現するための言葉です。お悔やみの言葉をかけられた際に「〇〇は95歳にして苦しむことなく天寿を全うしました。大往生でした」などのように使います。
子を亡くした親にかける言葉
子が親より先に亡くなることを「逆縁」といい、親の心労は計り知れません。弔問者は何も言わず、黙礼だけでもじゅうぶんお悔やみの気持ちは伝わります。以下のような言葉は、デリカシーを欠いています。決して口にしてはいけません。
- まだお若いのに
- あんなにお元気でしたのに
- かわいいお嬢様でしたのに
叱咤激励
自宅への弔問や葬儀の場で、励ましたり慰めようとするのは、ご遺族の心の負担が増すだけです。ご遺族が親しい間柄だと、つい口にしがちです。以下のような声掛けは控えましょう。
- 元気出してください
- 頑張ってください
- あまり落ち込まないで
- これからはあなたがしっかりしないと
場面に適した言葉がけ
次に、忌み言葉とは直接関係がありませんが、弔事でよくある場面でご遺族にどのように声がけをするのがよいかをご紹介します。
手伝いを申し出るとき
故人や喪家との関係性によりますが、ご遺体との対面を求められるような親しい間柄であれば、なんらかの手伝いを申し出るのがよいでしょう。次のように声がけをしてはいかがでしょうか。
- なにかお手伝いできることはありませんか?
- 私にお手伝いできることがあれば、遠慮なくおっしゃってください。いつでもご連絡ください。
遅れて不幸を知ったとき
親しい間柄だったにもかかわらず葬儀後に亡くなったことを知るのは、以下のような理由が考えられます。
- ご遺族が故人との関係を知らず訃報が伝わらなかった
- 限られた人たちだけで家族葬を執り行った
- 死亡状況により人に知らせず葬儀をした
お悔やみに行きたいときは、電話で弔問の意思を伝えます。ただし、そっとしておいて欲しい様子なら手紙を添えて、香典を郵送することも考えましょう。
〇〇さんの△△大学の同級生の〇〇と申します。お亡くなりになったとお聞きしました。ご迷惑でなければお線香をあげに伺いたいのですが、ご都合はいかがでしょうか。
まとめ
葬儀や結婚式など、特別な場面で使うことを控える「忌み言葉」について解説しました。
忌み言葉には弔事全般で使えない言葉と、宗旨宗派により使えない言葉とがあります。避けるべき言葉は多く、すべてを覚えるのは難しいため、一般的に通用するお悔やみの言葉や定型文をいくつか覚えておくと安心です。
忌み言葉とは別に、ご遺族にかけてはいけない言葉も紹介しました。家族を亡くしたばかりのご遺族は、たいへん傷つきやすい状態にあります。弔問時にはじゅうぶんに気を遣い、その場にふさわしい言葉づかいをしましょう。