焼香の意味
焼香は、行う場所やシーンにより、さまざまな方法や約束ごとがあります。この記事では、焼香の作法や注意点について解説します。
葬儀や法要、弔問など、焼香をする場面は日本人にとってなじみが深いものです。焼香は仏教の儀式で、故人と仏様に敬意と感謝を表す所作です。同時に、お参りする者の身を清める意味もあります。また焼香による香りや煙は、仏教では仏様の食べ物と考えられています。
お香は、飛鳥時代に仏教発祥の地であるインドから渡来しました。インドや東南アジアで採れる沈香(じんこう)、白檀(びゃくだん)などがお香の原料として有名です。強い香りを放ち、遺体の腐敗臭を防ぎ、動物から守ったといわれています。
日本では、芳香成分が含まれる樒(しきみ)の樹皮と葉を乾燥させて、抹香や線香を作っています。樒は仏事に広く使われる植物で、強い香りと毒性のため邪気を払うといわれてきました。
関西地方の葬儀では、樒を葬儀の装飾としても使います。東日本に多い葬儀会場の入り口に飾る花輪に相当するものが「門樒(かどしきみ)」とよばれるものです。このように樒は、弔事と深いかかわりのある植物として知られています。
弔問者が持参する「香典」は、もともとはお悔やみに訪問する人たちがお香を持ち寄ったのが由来です。それが後に現金を包む習慣に変わり、現在に至ります。そのため、不祝儀袋の表書きに「御香料」と書くこともあります。
葬儀・告別式ではいつ焼香を行うのか
葬儀・告別式では、ひとりひとり祭壇前に進み出て焼香を行います。慣れないと、緊張するかもしれません。そこで、事前に式の流れを知っておくと安心です。
以下は一般的な葬儀・告別式の進行例です。焼香は式の後半、弔辞の拝受や弔電紹介のあとに行われます。会葬者は、前の席の人から焼香に案内されるため、あまり自信がない人は最前列に座らないほうがよい、という意見もあります。
葬儀・告別式の進行例
- 一同着席
- 僧侶入場
- 会式の辞
- 読経(受戒・引導)
- 弔辞拝受・弔電紹介
- 焼香(喪主、遺族、親族、一般会葬者の順)
- 僧侶退場
- 喪主挨拶
- 閉式の辞
焼香のスタイルは3つ|立礼焼香・座礼焼香・回し焼香
焼香のスタイルは葬儀・告別式の会場の作りや広さにより、大きく分けて3つあります。立って行う「立礼焼香」、座って行う「座礼焼香」、祭壇に進まず自分の席で行う「回し焼香」です。
焼香をする順番は、喪主、遺族、親族、会葬者です。焼香の前に、喪主、遺族は会葬者に向かって一礼します。逆に、会葬者は喪主と遺族席に向かい一礼します。遺族席は祭壇に向かい右側です。同じように、焼香のあと、喪主と遺族は会葬者に、会葬者は喪主、遺族席に一礼します。
焼香台の香炉は、葬儀規模によっては複数設置されていることがあります。その場合、空いた香炉に順に進み焼香します。 会葬者が100人を超える葬儀になると焼香時間も長くなるため、スムーズな進行に協力するようにしましょう。
立礼焼香
立礼焼香は椅子席の式場で行われる、もっとも一般的なスタイルです。ほとんどの葬儀会場で行われている方法ですので、経験のある人も多いでしょう。焼香の手順は以下のとおりです。
- 喪主、遺族は焼香前に会葬者に一礼、会葬者は焼香前に喪主、遺族に一礼します。
- 祭壇の焼香台の手前まで進み、遺影写真に一礼します。
- 焼香台に進み右手の親指、人差し指、中指で抹香をつまみ、額の高さまであげます(押しいただきます)。
- 抹香を香炉の炭の上に静かに落とし入れると、煙が立ち上ります。
- 数珠を持っていれば左手または両手の親指と人差し指の間にかけて合掌し、一歩下がり遺影写真に向かい一礼します。
- 喪主と遺族は会葬者に対して一礼、会葬者は喪主、遺族席に一礼して席に戻りましょう。
座礼焼香
座礼焼香は自宅や寺院など、畳敷きの式場で行われます。現在は、正座をしなくてはいけない畳敷きの会場を使う葬儀は少なくなりました。焼香そのもののやり方は、立礼焼香と同じです。いくつかの相違点があります。
- 焼香台まではまっすぐ立ち上がらず中腰で移動します。
- 焼香台が近い場合は膝行(しっこう:膝で移動)します。
- 焼香台前に座布団が置いてあったらわきによけて、畳の上に座り焼香します。
回し焼香
回し焼香は自宅や集会所など、会場内を移動するのが難しい小規模な式場で行われる方法です。香炉を会葬者の間で順に回し、自分の席で焼香します。回し焼香も、焼香そのもののやり方は立礼焼香を参照してください。
- 香炉が回ってきたら畳敷きの会場なら自分の正面に、椅子席なら膝の上に置き焼香します。
- 喪主や遺族への一礼は行いません。
- 焼香後は遺影に一礼し、次の人に香炉を回します。
「押しいただく」とは?
抹香を右手の親指、人差し指、中指でつまみ、額の高さまであげる所作を「押しいただく」といいます。
焼香のマナー、注意点
焼香台では、抹香が右側、香炉は左側にあります。抹香の入れ物や香炉のタイプはさまざまですが、基本的な作法は同じです。利き手に関わらず、左手に数珠を持ち、右手で焼香を行います。
香炉の炭は、非常に高温です。絶対に触れないよう、気をつけてください。特に小さな子どもに焼香をさせるときには、じゅうぶんな注意が必要です。
焼香の順番は前述したように、喪主の次は遺族、親族の順です。親族の焼香順は、事前に決めておくのが無難です。中には序列を重んじる人もいて、焼香順でトラブルになることがあります。
おじぎのしかたで心がけたいこと
会葬者は喪主、遺族席に一礼、祭壇(遺影写真)に一礼が基本です。ところが、焼香の際に喪主、ご遺族だけでなく、他の会葬者などあちらこちらにおじぎをする人がいます。それは少々やりすぎです。会葬者焼香では、他の会葬者に向かってのおじぎはしないのがスマートです。
おじぎは、ゆっくりした動作を心がけましょう。喪主、ご遺族には心のなかで「このたびはご愁傷さまでした」と言うくらいの長さがよいといわれています。遺影には「ご冥福をお祈りします」と言うくらいの長さでおじぎをしてみましょう。
焼香に数珠(じゅず)は必要?
仏式の儀式では、合掌するときに数珠を使うのが一般的です。数珠は念珠ともよばれる仏具です。数珠を持つか持たないかは、個人の信仰や習慣によります。
仏教以外の宗教の信者は、数珠を持たなくてもマナー違反にはあたりません。逆に、仏教徒の人が神式やキリスト教式の葬儀に参列する際には、数珠を持たないのがマナーです。
日本の葬儀の約9割が、仏式で執り行われているのが現状です。そのため、多くの人が葬儀用の小物として数珠を持っています。
正式な数珠は、宗派により形状や素材が決まっています。宗派を問わず使えるのが略式数珠です。略式のものは値段も手ごろですので、ひとつ用意しておくのもよいでしょう。
なお、数珠を忘れてきたり持っていなかったりしたときに、焼香の場で数珠の貸し借りはタブーです。数珠を持たない人は、むしろ手ぶらで焼香をするのがベターです。
宗派による焼香のしかたの違い
焼香は、宗派により違いがあります。お香を香炉に入れる回数、押しいただくかいただかないか、の違いです。
- 焼香回数は宗派により1〜3回です。宗派にこだわるのでしたら、故人の宗派か自身の宗派に合わせます。
- 会葬者が多い葬儀では「1回焼香でお願いします」と、アナウンスされることがあります。時間短縮が目的ですので、協力しましょう。
- 焼香に最低限のマナーは必要です。しかし、細かな作法に必要以上に神経質になるより、心を込めて故人の冥福を祈ることが大切なことです。
主な宗派の焼香回数は、以下の表を参照してください。現在、日本には13宗56派が存在しているといわれています。
宗派ごとの作法をすべて覚えるのは困難です。1回の焼香をていねいに、しかし手短に行うのが基本です。
宗派 | 焼香回数 | 押しいただく |
浄土宗 | 1~3回 | する |
浄土真宗本願寺派 | 1回 | しない |
浄土真宗大谷派 | 2回 | しない |
日蓮宗 | 3回 | する |
日蓮正宗 | 3回 | する |
臨済宗 | 1回 | する |
曹洞宗 | 2回 | する(1回目のみ) |
真言宗 | 3回 | する(1回目のみ) |
天台宗 | 1~3回 | する |
抹香と線香
お香にはいろいろな種類があります。私たちが日常的に使うのが、葬儀・告別式などの儀式における粉末状の「抹香」と、ご遺体の安置場所や火葬後のご遺骨の安置場所で炊かれる「線香」です。線香は、仏壇や墓前に手を合わせる際の必需品でもあります。
- 通夜、葬儀・告別式では抹香を使った焼香を行うのが通例です。
- ご遺体を安置場所(自宅や安置施設)に搬送後、通夜までは「枕飾り」を設置し線香をつけます。
- 火葬後は「後飾り」を設置しご遺骨を安置し線香をつけます。
- 葬儀後、自宅への弔問客は線香で焼香します。
線香焼香のしかた
線香の焼香は、多くの日本人の日常生活に溶け込んでいる、なじみの深いものです。線香を使った焼香にも、いくつか注意点があります。
- 数珠があれば左手に持ち、遺影に一礼します。
- 右手に線香をとり、ろうそくで火をつけます。ろうそくに火がついていないときはマッチなどで先に火をつけます。線香に直接火をつけてはいけません。
- 線香の本数は宗派により1本か3本です。
- 線香の炎は左手であおいで消すか、下に振り切るようにして消します。息をかけて吹き消してはいけません。
- 香炉に線香を立てておりんを1回鳴らし、合掌します。
- 宗派によっては線香を折ったり寝かせたりする方法もあります。
初めての葬儀参列|焼香のしかたを学ぶには
通夜、葬儀・告別式はフォーマルな場です。そのため焼香を含めて、各動作にはある程度決まったやり方があります。初めて弔事に参列するときにそなえ、事前に知識を得ておくと安心で、以下の方法がおすすめです。
書籍
写真や図、表を多く用いて解説してあるため、場面をイメージしやすいのがメリットです。たしなみとして、冠婚葬祭の解説書を1冊持っておくと便利です。
インターネット
現在はインターネットから多くの情報が得られる時代になりました。しかし、インターネットの情報は玉石混交です。
おすすめは葬儀社、葬祭ディレクター、マナー講師などが発信しているサイトや動画です。焼香のしかたの動画も、多数公開されています。
葬儀社
地域のしきたりに精通しているのが、地元の葬儀社です。本やインターネットで調べてもわからないことは質問してみましょう。
書籍やインターネット情報は、あくまで一般的な内容になっています。必ずしも、地域のしきたりと一致するとは限りません。葬儀は地域差が大きいため、本やインターネット情報を基本にしつつも、その土地の慣習を優先することが大切です。
仏式以外の拝礼のしかた
焼香は、仏式で故人の冥福を祈る儀式です。日本の葬儀のほとんどが仏式で執り行われますが、仏教以外の宗教にもとづき行われる葬儀もあります。
主なものに神式、キリスト教式(カトリック、プロテスタント)、そして宗教色を排した無宗教葬儀があげられます。仏式葬儀以外の焼香にあたるものは、以下のとおりです。
神式葬儀
神式葬儀で仏式の焼香にあたるのが「玉串奉奠(たまぐしほうてん)」です。玉串奉奠とは紙垂(しで)とよぶ紙をつけた榊の枝を祭壇に捧げ、二礼二拍手一礼するものです。拍手は音を立てない「しのび手」で行います。
キリスト教式葬儀
キリスト教式葬儀ではカトリックもプロテスタントも、焼香にあたるのが「献花」です。白カーネーションなど、一輪の花を祭壇に捧げ祈ります。
無宗教葬儀
宗教色のない無宗教葬儀では、焼香にあたる儀式に決まった形はありません。焼香か献花を行うことが多いようです。
お別れの会・偲ぶ会
故人の関係者が多い場合、家族葬や密葬の後に「お別れの会」や「偲ぶ会」が開かれることがあります。会場として、多くはホテルの宴会場が使われます。
ホテルは結婚式など慶事にも多目的で使われ、一般的にお香を焚くことができません。そのため、焼香のかわりに献花が行われることがあります。
まとめ
この記事では焼香の意味や手順、マナーについて解説しました。仏式の通夜、葬儀・告別式では必ず行われる儀式ですので、初めて葬儀に参列する人は書籍や動画などでシミュレーションしておくと安心です。
ふだんは宗教観を持たない人でも、仏式で執り行われることが多い葬儀の場では、仏教の教えや作法を意識することになります。
ひとつひとつの所作や装飾品、道具に意味があります。それらを知ることで、より気持ちを込めて哀悼の意を伝えることができます。